(Ⅲ)電圧増幅段の設計
電圧増幅段のカットオフ周波数は20KHz/−3dBを目指します。
下図はLME49810のゲイン/位相の周波数特性です。これまではゲイン20dB(10倍)で使用していました。帯域は2MHzとなります(緑色の線)。これをゲイン60dB(1000倍)まで上げれば、帯域は20KHzまで落ちてくるはずです(青色の線)。
オペアンプのゲイン/位相特性をうまく利用すれば、外部にコンデンサを付加せずにアンプの周波数帯域を変えることができます。
オペアンプのゲイン/位相特性がこのようになる仕組みについて少し説明したいと思います。実は、オペアンプの内部ではコンデンサを使った位相補償によってポールの位置を調整するということが行われています。下図はオペアンプ内部を説明した図です。
説明に使っているのは、初段が差動増幅回路とそのゲインを上げるためのカレントミラー回路、次段がエミッタ接地回路という基本形です。この中で、エミッタ接地の出力から差動増幅の出力に接続されたコンデンサがポール位置の調整を行っています。
LTSpiceを使ってシミュレーションしてみましょう。位相補償用のコンデンサを変化させてパラメトリック解析を行います。
コンデンサの値を10pF、100pF、1000pFと一桁ずつステップさせると、周波数特性も一桁ずつ変化していくことが見て取れます。
一般的には、第一ポールの周波数を10Hz程度まで下げ第二ポールを0dBラインの下側に抑え込みます。この結果、ボルテージフォロアーでも発振しない安定なオペアンプとなります。「オペアンプの音はよくない」とおっしゃる方の根拠は、このような回路構成を取っているからという所にあるようです。
1970年代、DCアンプが出始めの頃に発表された製作記事やメーカー製品はオペアンプの内部回路をコピーしたものがほとんどだったと思います。ただ、オペアンプのような汎用性は必要ないですから、各ステージのゲインや帯域を最適化して位相補償が最小になるような工夫をされていたと記憶しています。
次は電圧増幅段を1段で済ませるアイデアです。それは、インスツルメンテーションアンプ(Instrumentation Amplifier)の2段目の差動増幅回路を削除するというものです。下図のようにシンプルな構成になります。
U1の出力とU2の出力とがそれぞれ出力管のグリッドにつながります。本来であれば、U1とU2の出力は位相が逆でゲインルが同じであることを求められますが、上記回路ではそれが完全ではありません。下図にU1とU2のゲインを計算した式を示します。
U1とU2のゲインの差は、第二項のVi1とVi2の違いだけです。今回は電圧増幅段の帯域を狭くするためにゲインを上げる、すなわちR2/R1(=R3/R1)を大きくする予定ですからVi1とVi2の差は相対的に小さくなると考えられます。
ゲインを1000倍、NFなしで計算してみます。
ゲイン1000倍にするにはR2/R1=1000とします。NFBなしで入力Vi1=1mV、Vi2=0mVの時、出力Vo1=1001mV、Vo2=-1000mVとなり両者の出力差は1mV、すなわち0.1%にすぎません。これは一般的に使われる抵抗の誤差1%の十分の一です。全く問題ないと考えられます。因みに、NFBありの時も同じ誤差になります。
電力増幅段がA級増幅であれば、上記のVi1とVi2の差は出力トランスで打ち消されます。今回のアンプはB級に近いAB級なので打ち消しはそれほど期待できません。
参考文献:
岡村廸夫、定本 OPアンプ回路の設計、CQ出版、p.85−88
黒田徹、実験で学ぶトランジスタ・アンプの設計、CQ出版、p.83−87