コンテンツ

カテゴリー「KT88構想」の3件の記事

2016/03/15

KT88プッシュプルアンプ 構想と仕様(2)

設計の方向です。

(1)出力段
三極管接続で60Wの出力を得ることは無理なのでUL接続とします。ダンピングファクタの目標は15以上なので高NFアンプとなりますが、そのためには特性の良い出力トランスが必要です。今回は奮発して橋本電気のHW−60−5を採用しました。しかし、性能の良いトランスがNFBの足を引っ張ることになるとは気が付きませんでした.....。


_02




(2)電圧増幅段
KT88のバイアス電圧は−50V〜−60Vになると予想されます。ピークtoピーク120Vでドライブするのは真空管でも半導体でも容易ではありません。今回は、5年ほど前に半導体アンプを製作した際に目をつけていたTI社のLME49810を使用します。この石はバイポーラプッシュプルアンプのドライバーとして開発されたものです。ところが、データシートをよく見ると特性グラフにはパワーアンプ完成体としてのものではなく、LME49810単体を電圧増幅器として使用した時のものが掲載されています。さらに、単体でのゲイン/位相周波数特性まで示されているではありませんか。ということは、この石は高電圧オペアンプとして使用できる可能性がある、というか使用できるということです。電源電圧は最大で±100Vもあり、出力として190Vp−pを得ることができます。真空管アンプのドライブ用としてぴったりです。



Lme49810




(3)電源回路
ヒータ以外のオペアンプ用の電源とB電源を安定化します。トランスは株式会社フェニックスのRコアトランスを使うことにします。

(4)実装構造
トランスの重量が大きく持ち運びに難儀するのでアンプ部はモノラル構成です。電源部も別筐体にします。配線は、真空管の周りを除きプリント基板を使うことにします。






2016/03/08

KT88プッシュプルアンプ 構想と仕様

 中学生の頃の参考書は専ら「初歩のラジオ」でした。時期と内容ははっきりしないのですが、中学生が森川忠勇氏の指導を受けてKT88プッッシュプルアンプを製作するという記事が掲載されました。とても羨ましかったのを覚えています。いつの日にか私もKT88アンプを作ってみたいと思いました。


 社会人になってから知人にそのことを話したところ、その知人はアンプ製作とは無縁だったにもかかわらずGECブランドのKT88を持っていて、使わないからとタダでゆずってくれました。そこまでは良かったのですが、ゲッターがほとんど飛んでいて使い物になりませんでした。もちろん使えなかったとは言えませんでした。その知人は真空管の知識がない方だったので仕方ありませんね。


Kt88_08



 初めてKT88アンプを製作したのは20年ほど前です。中国からGolden Dragon KT88 Classicという本物そっくりの球が出たことを知り、早速購入し出力が30W程度のULプッシュプルアンプを製作しました。当時使用していたアキュフェーズのP-266と聴き比べたのですが、良い印象が無かった記憶があります。私の腕が悪かったのだと思います。


Kt88_07



 KT88の歴史と現行ロシア管について、2015年のラジオ技術1月号と2月号に都来往人氏が詳述されています。読み物として大変面白いのですが、技術史資料としても一流の内容です。


Kt88_05



 KT88は6550をベースに開発され、1956年に発表されました。今年で60年となります。開発と製造は、MarconiとOsramの合弁会社M-O.Valveです。販売ブランドはGEC、Genalex、Gold-Lion等々、色々あります。1988年まで製造が行われていたということなので、高価ではありますが未だ時々市場に出てくるようです。


 現行品ですが、スロバキア(JJ)製とロシア(Reflector工場)製の2つに絞られます。現行のGold-Lion、Mullard、Electro-Harmonix、Sovtek等々のブランドは全てReflector工場で作られているようです。Svetlana工場製は現在入手できません。




 KT88はプレート最大電圧が800V、プレート最大損失40Wの大型管です。電源電圧560VのUL接続で100Wが得られるとデータシートに記載されています。今回そこまで頑張ることはせず、製作例の多い出力50W〜60Wを目標に設計しようと思います。

今回製作するアンプの目標仕様です。
   最大出力      : 60W
   歪率        : 1%以下(50W出力時)
   増幅度       : 14dB(5倍)/4Ω
   周波数特性     : 10〜100KHz(−3dB)
   ダンピングファクタ : 15以上
   残留雑音      : 0.2mV以下





参考文献:
  都来往人、ロシア製Mullard KT-88復刻版(前編)、アイエー出版「ラジオ技術」、2015年1月号、p.45−62
  都来往人、ロシア製Mullard KT-88復刻版(後編)、アイエー出版「ラジオ技術」、2015年2月号、p.37−56
  誠文堂新光社「世界の真空管カタログ」



2016/03/05

KT88プッシュプルアンプ はじめに

 KT88を使用したプッシュプルアンプを製作しましたので、これから何回かに分けて紹介したいと思います。


Kt88_03



 今回も出力段以外は半導体のハイブリイドタイプです。EL84プッシュプルアンプではOPA604でグリッドをドライブしましたが、KT88ではLME49810を使用します。回路の概略は下記の通りです。


Kt88ulpp_schematic