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(Ⅴ)測定結果(NF:17dB)
(ⅰ)入出力特性
1KHzのNFなしとNF17dBとを一つのグラフにまとめました。真空管はNo.1とNo.2です。
入出力特性のグラフは縦軸、横軸共に対数目盛りなので直線性が良いように見えます。0.1W出力を100%とし横軸をアンプ出力、縦軸をゲイン誤差としたグラフが下図です。NFBの効果が見て取れます。
ゲイン誤差のピークを最大出力と考えるならば、NFなしで54W、NF17dBで51Wと読み取れます。
(ⅱ)ダンピングファクタ
ダンピングファクタは1W出力で11強となりました。本当は20以上欲しかったのですが、NFが17dBでは仕方ありません。
(ⅲ)歪率特性
1Wで0.01%、10Wで0.1%と優秀な値です。
(Ⅲ)発振対策
(ⅳ)積分補償を行う
前回の対策によって電源投入時の発振は無くなりました。しかし、アンプの状態は非常に不安定で、4Ωの抵抗負荷を外しただけで派手に発振してしまいます。
やむを得ません、積分補償を追加することにします。一般的な真空管アンプでは初段に積分補償を加えますが、今回のアンプは初段方向に周波数特性が良いという形式なので、出力段で積分補償を行います。この方式は黒川達夫氏が”出力段位相補正”として発表されています。氏は「無線と実験」誌に多くのアンプ製作記事を発表されていますが、比較的初期の頃に使われていたように記憶しています。技術的な説明は参考文献に詳しいです。
コンデンサにはマイカやフィルムを使いますが、耐圧がが足りないので2個直列にします。
積分補償を行った時の周波数特性を下図に示します。NFBは外してあります。
定数は2KΩ+1200pF+1200pFとしました。もう少し周波数特性を下げても(悪くしても)良かったかもしれません。
ラグ板を立ててアンプに実装しました。
(ⅴ)積分補償を行う
さらに微分補償を行います。NFBをかけ、位相補償コンデンサの値で周波数特性がどのように変わるか測定しました。
微分補償のコンデンサは120pFとしました。
(ⅵ)NFBを減らす
ここまでやって、無負荷時の発振は無くなりました。また、4Ω+100nFの負荷も発振せずOKとなりました。
しかし、100nFの容量性負荷をアンプにつなぐと見事に発振します。また、1KHzの正弦波を入力し出力を上げていくと、10Vrms(25W)ぐらいから1KHz正弦波の上に1MHz程度の波形が重畳しているのが観測されます。
万策尽きたという感じで、NF量を20dBから17dBに変更しました。これにより、前記の発振現象は消えました。しかし、100nFの容量性負荷は出力4Vrms(4W)が限界で、これを越えると発振に至ります。安定性は十分とは言えませんが、対策はこれで打ち止めとします。
参考文献:
黒川達夫、現代真空管アンプ25選、誠文堂新光社、1998、p.106-110
(Ⅲ)発振対策
(ⅰ)初めの状況
下図の定数で約20dBのNFBをかけました。アンプの入力をグランドに落とし、出力に4Ωの抵抗負荷を接続してあります。
電源を入れると、振幅数百mVで3MHz前後のきれいな正弦波が出力に現れました。
発振しています!
(ⅱ)出力段の高域を抑える
調査のためNFBを外し、測定範囲を10MHzまで拡大してアンプの周波数特性を測定した結果が下図です。ゲイン0dBと周波数1MHzのところに緑色の線を入れてあります。
気になったのは1MHz以上の特性です。信号レベルが低く測定限界に近いということもあるのですが、一旦ゼロ(1倍)を切ったゲインが再びプラスに転じています。ここに原因の一つがあるのではと考えました。
対策としてアンプ出力に抵抗とコンデンサを直列接続したダンパ回路を接続することにしました。
(多極管アンプの容量性負荷対策としてお馴染みのものです)
6.8Ωと220nFの組み合わせで何とかゼロを切ることができました。
(ⅲ)電圧増幅初段の高域を抑える
次に、アンプ出力をβ回路を介して受けている電圧増幅初段に注目しました。初段の周波数特性が”良すぎる”ことが原因ではないか考えたのです。下図は初段の回路構成です。
オペアンプにはAD797を使い、マイナス端子と出力の間に入っているコンデンサの容量は22pFでした。
この時の初段の周波数特性が下図です。出力は1Vrms、−3dBのカットオフ周波数は2.8MHzです。
マイナス端子と出力の間に入れているコンデンサの容量を100pFに増やした時の周波数特性が下図になります。−3dBカットオフ周波数は1.6MHzまで下がりました。
前記のダンパ回路追加とAD797マイナス端子と出力の間に入っているコンデンサ値を100pFに変更することとで、何とか3MHzの発振を止めることができました。
マイナス端子と出力の間に入れているコンデンサを外し、オペアンプをOPA627に変更しても同等の効果が得られました。下図は、この時の初段周波数特性になります。カットオフ周波数は1.2MHzでした。
NFB回路の中心であるβ回路にコンデンサを入れ微分補償を行っています。しかし、微分補償は位相の回転を遅らせると同時に高域のゲインを上げてしまいます。補償コンデンサの値を大きくしていくと今回の現象が悪化することが確認されました。
(Ⅱ)測定結果(NFなし)
(ⅰ)入出力特性
ゲインは、Tube1&2が54.5倍(34.7dB)、Tube3&4が49.5倍(33.9dB)でした。歪を無視すれば60Wの最大出力が得られています。しかし、大出力時は小出力時と比較してゲインが6%程度大きくなります。NFなしでは当然ですが、リニアリティがないということがわかります。
(ⅱ)ダンピングファクタ
1を少し下回る値になっています。UL接続の5極管なので仕方ありません、NFに期待です。
(ⅲ)歪率
Tube1、2の組み合わせの方が少しだけ良い値です。NFなしでも優秀な特性だと思います。
(ⅳ)周波数特性
電圧増幅段の周波数特性がとても良いので、下記の特性はKT88プラス出力トランスのものと考えて良いです(実質トランスの特性です)。−3dBのカットオフ周波数は、Tube1&2が120KHz、Tube3&4が140KHzでした。
(Ⅰ)調整
(ⅰ) 電源部
一次側の配線と二次側の整流回路までの配線を済ませてAC100Vを接続し、整流後の電圧が電源トランスの定格電圧の1.4倍前後が出ていることを確認します。
次に安定化電源を一つずつ確認していきます。所定の電圧になるように半固定抵抗を調整しますが、私はデバッグがすべて終わった時点で固定抵抗に置き換えることにしています。今回、電源部に使っている半固定抵抗7個のうち1個にトラブルが発生しびっくりしました。半固定抵抗は機械的な接点がありますから、製造時点で問題なくても流通や保管で不具合品に変化する可能性も有り厄介な代物です。
写真に写っているデジタルマルチメーターはキーサイト・テクノロジー社(旧ヒューレッドパッカード社)の34461Aです。
これまでケースレー社(現在はテクトロニクス社に吸収されている)の2100を使っていたのですが、電源を入れると10分間ほどエラー表示が出て測定できないというトラブルが発生しました。修理費用をホームページで確認したところ、故障内容に関わらず一律八万数千円で、補償期間5年をすぎている個体はプラスアルファが請求されるとのことでした。送料や税金を加えると十万円を越える可能性もあります。因みに、この測定器は8年前に当時のケースレー日本法人から直接購入したものです。
資産管理している組織で税金のメリットがあるのなら修理しますが、個人の場合は購入金額を上回る修理費用を今更支払うのは馬鹿馬鹿しいと思いますよね。ということで、34461Aの購入に至りました。オシロのテクトロ、マルチメータのHPというのは測定器界のブランドです。手に入れられてとても嬉しいです。
(ⅱ) アンプ部
電源を入れる前に、電源とグランド間にテスターを当て異常な抵抗値を示していないかを確認します。電源を入れたならば、素早く各部の電圧を確認します。半固定抵抗を回してバイアス電圧が変化するかを確認し、プレート電流が小さくなる方に半固定抵抗を回しておきます。
次に、発振器を入力につなぎ電圧増幅段の動作を確認します。ゲインが計算通りか、周波数特性がシミュレーション通りかまでチェックできれば完璧です。
プリント基板をアンプケースに組み付け配線を済ませます。テスターを2本の真空管のカソード抵抗それぞれに接続し、電源を入れてバイアス電流調整を行います。今回は少し多めで65mAにしました。電源を投入して10分ぐらいで安定します。
(Ⅱ)測定(NFBなし)
NFBなしの状態で一通りの測定を行います。測定項目は、歪率特性、周波数特性、入出力特性、ダンピングファクタ等です。
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