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カテゴリー「KT88考察」の3件の記事

2016/10/04

KT88プッシュプルアンプ 考察(3)

(Ⅲ)音質はどうだったか

苦労して製作したアンプなのでワクワクしながら電源を入れました。
ダンピングファクタが10を超えていますから低音の音離れが良く、スピーカーから音の粒がこちらに飛んでくるように感じます。ダークな音色ですが一通りの音が聞き取れます。ゴリゴリと押し出しの強い無骨なアンプ、という印象です。



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上記では真っ当な音を出しているように書きましたが、正直言ってこのアンプの音は良くありません。物理特性は良好なので楽曲から一通りの音が聞き取れるのですが、ベールが2枚も3枚もかかったような濁った音です。低音の押し出しが強いこともあって聴き疲れします。
友人が遊びに来た時に聞いてもらったのですが、このアンプに関してはノーコメントでした...。



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初段に積分補償を行ったアンプの音は良くないと言われていますが、出力段に積分補償を行ったアンプの音も良くありません。というよりも、発振しているアンプを位相補償でなんとか動かしているようでは良い音が出てくるわけはありませんね。



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ここまで引っ張ってきて音が悪いでは情けなさすぎます。
リベンジしたいと思います。

2016/09/30

KT88プッシュプルアンプ 考察(2)

(Ⅱ)周波数帯域からNFBを考察する

下図は電圧増幅段の周波数特性です。−3dBのカットオフ周波数は2.5MHzです。


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スタガ比を稼ぐためとはいえ、オーディオアンプにこのような広帯域の回路を持ち込んで問題はないのでしょうか。

下図はNFをかけない状態でのアンプ周波数特性です。



Nf



1MHzまではそれらしい特性ですが、1MHzを越えるとゲイン、位相ともメチャクチャです。1MHzを超えた領域では、トランスがトランスとして機能していません。メガヘルツオーダーで動作する回路に真空管用のトランスを組み込み、多量のNFをかけることには問題がありそうです。



多量のNFをかけた回路では、100KHzを越えるとプリント基板やシャーシ内の配線による浮遊インダクタンスと浮遊容量の影響が無視できなくなります。理論通り動かなくなり、何故?ということがしばしば起こります。

また、オペアンプのように高入力インピーダンス/高ゲインの素子では局部発振の危険性が高く、プリント基板の配線引き回しや部品配置に注意が必要です。オペアンプのデータシートに載っている特性ですが、メーカーはベタグランドの上に実装した試験回路で測定していることが多いです。ユニバーサル基板で実験すると発振して動かないということはよく経験します。

このように見てくると、トランスや真空管等の図体が大きな部品が回路の中に含まれ、配線の引き回しが長くなりがちなオーディオアンプにおいて高い周波数を扱うことの危険が浮き彫りになります。



今回製作したアンプではプリント基板内をベタグランドとしましたが、アンプ全体を考えると効果は部分的なものだったようです。

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2016/09/27

KT88プッシュプルアンプ 考察

今回のアンプ製作を通し、トランスを使った真空管アンプはNFBに関し特別な注意が必要である、ということに改めて気付かされました。


(Ⅰ)出力トランスの特性からNFBを考察する

アンプにNFBをかける時は、スタガ比を適正に取るために各段の周波数特性に差をつけるということが行われます。NFBがオーディオアンプに導入された初期の頃は、出力段から初段の方向に周波数特性が悪くなる、すなわち出力トランスの周波数特性が最もよく初段の周波数特性が最も悪い、という構成を取っていました。


下図は、初段のゲインが30dBでカットオフ8KHz、次段のゲインが15dBでカットオフ40KHz、終段のゲインが−5dBでカットオフ200KHzの周波数特性グラフです。実際のアンプ特性ではなくイメージです。



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これに対して黒川達夫氏や氏家高明氏は、出力段から初段の方向に周波数特性がよくなる、すなわち出力トランスの周波数特性が最も悪く初段の周波数特性が最もよい、という構成を提唱されました。

下図は上図と逆、初段のゲインが30dBでカットオフ200KHzKHz、次段のゲインが15dBでカットオフ40KHz、終段のゲインが−5dBでカットオフ8KHzの周波数特性グラフです。


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出力トランスの周波数特性は上図のように8KHzということはなく、一般的に100KHz前後あります。従って、スタガ比を考えると電圧増幅段の周波数特性は1MHz以上欲しいのですが、真空管で構成しようとするとかなりの工夫が必要になるのが実情です。


黒川氏の対応は下記だと理解しています(参考文献(1))。
電圧増幅段には内部抵抗の低い真空管を使い、出力インピーダンスを下げて周波数特性を向上させます。それでも出力段とのスタガ比は数倍しか取れませんから、結果としてNFB量は10dB以下(多くの製作例では6dB)と少なめで、裸特性のよいアンプ設計が必要となります。ダンピングファクタは5前後で、欲張っていません。位相補償は微分補償が中心ですが、初期の製作例では積分補償も使われていました。


一方、氏家氏は出力トランスの特性に着目しています(参考文献(2),(3))。減衰特性を理想(−6dB/oct)に近づけ高域特性を落としたトランスをタンゴ(ISO)に特注して問題を解決しています。300Bプッシュプルアンプでは、NFBを20dBかけ24.4のダンピングファクタを得ています。この製作記事では、出力にRCのダンパーを付加した上で微分補償が行われていました。


私はというと、電圧増幅段を半導体(オペアンプ)で構成し、1MHz以上の帯域を持たせてスタガ比の問題を解決しようとしました。しかし、スタガ比は取れているはずなのにNFBをかけると不安定で使い物になりませんでした。なぜでしょう?NFBをかける前の周波数特性を見て原因がどこにあるか考えてみます。


Nf



周波数特性を見て気付くのは、200KHz台にあるゲインのピークと位相の変化です。トランスメーカから出ている特性グラフには描かれていないことが多いですが、アンプに組み込むと必ず出てきます。
トランスの等価回路を下図に示します(参考文献(4))。一般的なものです。


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先ほどの200KHz台のピークは、等価回路に示されている漏れインダクタンス(漏洩インダクタンスとも言う)と浮遊容量が原因となっています。

漏れインダクタンスはトランスとして機能しない部分のインダクタンスです。スイッチング回路では、電流/電圧にピークを生じさせて素子破壊の原因になったり、エネルギーをチャージするので損失の原因になったりします。浮遊容量は集中定数ではなく、導体間に存在する分布定数です。

インダクタンタとキャパシタは共振回路を形成します。下図は、10mHのインダクタと50pFのキャパシタを直列接続した時の共振をシミュレーションしたものです。


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225KHzで位相が180度変化し、ゲインに大きなピークが生じています。実際のトランスでは浮遊容量が分布定数であるため、上記の共振回路がアンプとスピーカー間にシリーズ接続されるというわけでありません。共振回路がトランス特性の一部を変化させるように働くという風に考えた方が良いと思います。


次に、先ほどのNFをかける前の周波数特性に10dBのNFBと20dBのNFBをかけるとどうなるか、線を追加してみたのが下図です。引かれた直線より上の部分が入力に帰還されます。カットオフから先は、周波数が高くなるに従い帰還量が減っていくことになります。


Nf_2



20dBの赤い線に着目すると、トランスのピーク部分が遥か上にあることに気づきます。これは、トランスのピーク(=漏れインダクタンスと浮遊容量の共振現象)がβ回路を介して入力に帰還されるということを意味しています。これはNFBの一般的理論の想定外の現象であると言え、解析が難しいことからアンプ製作では避けるべきであると考えます。

どこまでのNF量が許されるかですが、理想的には6dB以内でしょうが位相補償を行ってゲインのピークをつぶせば12dB〜14dBまではなんとかなると思います。


今回のアンプ製作における発振トラブルは、トランスの特性を十分に理解していなかったことが原因と言えます。




参考文献:
(1) 黒川達夫、現代真空管アンプ25選、誠文堂新光社、1998、p.89-110
(2) 氏家高明、300B−PPモノーラル・アンプの製作、アイエー出版「ラジオ技術」、2008年1月号、p.71−74
(3) 氏家高明、300B−PPモノーラル・アンプの製作(2)、アイエー出版「ラジオ技術」、2008年3月号、p.33−41
(4) 遠坂俊昭、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版社、2013、p.61−69