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私が使っているプリント基板設計CADは、CadSoft Computer社のEAGLEです。これまでは何世代も前のバージョン(Windows版)を使っていました。最近、新バージョンのMAC版を購入し乗り換えようとしているのですが、操作が異なっていて使いこなしに苦戦しています。それと、ファイル互換が完全ではないです。Windows版とMAC版の違いなのか、バージョンが3以上異なっているからなのか、よく分からないです。
EAGLEは紹介記事が多く、Freeware版もあるので多くの方が使っているのではないでしょうか。Freeware版には板のサイズ制限があり、私は少し大きめの基板も製作したいので有償版にしています。その他の無料ソフトですが、GPLのKiCad、P板.comが配布しているCADLUX、RSコンポーネンツが配布しているDesignSparkPCBが有名どころです。もちろん、ある程度の制限が付いていると思います。私はEAGLE以外の製品を使ったことがないので、どれが良いかはわかりません。道具ですから慣れればなんとかなると思います。
下図は、EAGLEを立ち上げた初期画面です。殺風景ですね。
EAGLEで作成したPT基板の例です。今回のアンプとは違います。
先週、EL84アンプ電源部の回路図を掲載しました。今回はアンプ部本体の回路図を掲載します。上がプリント基板の回路図(片チャンネル分)で、下がアンプ部全体の回路図です。前にも説明しましたが、アンプ部と電源部は別筐体としています。
(Ⅲ)タイマー回路
EL84は傍熱管なので必要ありませんが、B電源の立ち上がりを遅らせるタイマー回路を付け加えました。
シミュレーションの結果を下記に示します。
AC電源投入後、25秒程度で安定化電源が立ち上がります。555を使用した遅延ターマーですが、素子の内部回路から分かるように、電源投入時にTRIG端子電圧がCV端子電圧の1/2より低くないとTHRS端子がディスチャージされたままになり動作しません。各端子に接続される抵抗とコンデンサの値によって、また555の製造プロセスによって変わってきますので、十分な確認が必要です。
B電源回路図の最終版を下記に示します。ターマー動作中にLEDを点滅させる回路も加えました。使用する酸化金属皮膜抵抗の耐圧を考慮して、2本直列接続としているところが何箇所かあります。555はCMOSタイプを使用しました。
(Ⅳ)オペアンプ用電源
3端子レギュレータ317と337を使った可変タイプのものです。回路図は下記の通りですが、まず±32Vを作りその出力を使って±15Vを作ります。LED点灯回路を設け、上記タイマーの点滅回路と組み合わせます。
(Ⅱ)B電源
ラジオ技術2007年6月号に、佐藤荘太郎氏が書かれた「汎用3端子レギュレータLM317を使って管球アンプ用高圧定電圧電源を作る」という記事が載っています。当時、EL34パワーアンプを製作していて、これは良いと思い早速使ってみました。記事にある通り温度に対する安定度は今ひとつでしたが、真空管アンプに使うには十分だったと記憶しています。今回は、この3端子レギュレータを応用した安定化電源を採用することにします。
この安定化電源は、NS社がTI社に買収される前の1980年にMichael Maida氏が発表しています。海外ではmaida regulatorとして有名な回路だそうで、今でもTI社のホームページで源資料を見ることができます。
この回路の基本動作を下記に示します。
シミュレーション結果を下記に示します。LTSpiceには317のモデルが用意されています。ただし、LM317という名称ではなくリニアテクノロジー社の型格LT317Aという名称です。SCT2450KEのモデルはロームのホームページからダウンロードしましたが、デバイスモデルではなくマクロモデルでした。シミュレーションを行うと収束しないことが多く、LTSpiceで用意されていたデバイスモデルSTP8NM60で代用することにしました。今回の目的では結果に大きな差は生じません。
安定化電源の入力と出力 LM317の出力と入力、FETのソースとゲート
317のADJ端子に220Ωを介して接続されている1μFは、電源の立ち上がり速度を遅くする(所謂ソフトスタート)働きがあります。R11(150kΩ)は、317が負荷電流3.5mA以上を推奨しているため入れてあります。電圧設定抵抗R7とR8と合わせて3.5mAです。シミュレーションでは必要ないと思いますが、ゲート抵抗R5は発振防止用です。
本回路では240mA負荷の条件で、488ms後に70%まで立ち上がり、1.8s後に100%となります。各部の電圧は、Voutが300.1V、317の入力が303.6V、FETのソースが306.1V、FETのゲートが312Vとなりました。
参考文献:
佐藤荘太郎、汎用3端子レギュレータLM317を使って管球アンプ用高圧定電圧電源を作る、アイエー出版「ラジオ技術」、2007年6月号、p.57−62
(Ⅰ)トランス
トランスは株式会社フェニックスのRコアトランスを使用しました。
トランスの仕様決めですが、必要な電流はEL84のデータシートから算出しました。データシートのB1級プッシュプルには、17W出力時のプレート電流が46mA、スクリーン電流が11mAと記載されています。従って、ステレオ2チャンネルの最大出力時の電流は(46mA+11mA)×4=228mAと計算されます。もっとも、2チャンネル同時に最大出力が連続するというのは音楽鑑賞の中ではあり得ません。必要な電圧の方ですが、安定化電源を考えていますので(300V+10V)+αが必要です。
アンプ側はDCで考えていますが、トランスの仕様はACです。ブリッジ整流におけるDC電流はトランスのAC定格の6割、DC電圧はAC定格の1.2倍ぐらいになるというのが一般的に言われています。ということで、B電源用の巻線仕様は260V0.4Aにしました。その他は、電圧増幅段用として30V0.2A×2、ヒーター用として6.3V5Aを用意することとし発注しました。
メーカから届けられたトランスの測定値は下記の通りです。
これらの値を用いてシミュレーションを行います。
シミュレーション回路(負荷なし) トランス二次電圧
シミュレーション回路(負荷あり650Ω=390mA) トランス二次電圧
負荷なしの時の電圧は274.4V、負荷ありの時の電圧は258.8Vとなり、メーカ測定値とほぼ一致しました。
続いて整流回路を接続してDC電圧がどうなるかシミュレーションしました。
トランス二次電圧 整流後電圧とトランス二次電流
設計時に想定した最大電流240mA負荷時、トランス出力電圧はAC260Vとなっており目論見通りなのですが、整流後電圧の中心値が342Vと設計時の想定より30V高くなってしまいました。この原因はRコアトランスの巻線抵抗が一般のトランスより低いことにあります。これは想定していませんでした。この結果、定電圧回路の損失が大きくなることが予想されます。しかし、家庭用電源の変動±6Vを考慮するならば妥当な値かもしれません。
(Ⅳ)最大出力と歪率
下記は歪率のグラフです。バラックでの測定だったのでTHD+Nはボロボロでした。載せるに値せずということでTHDのグラフだけです。ちゃんと組んだら再測定したいと思います。
最大出力は15Wまで伸びますが、歪率1%以下を判断基準にするならば13Wになります。出力トランスのインピーダンスを下げ、オペアンプの能力をフルに使ったAB2級にすれば最大出力はもっと伸びると思いますが、今回はこれでよしとします。
(Ⅴ)NFBと位相補償
回路が2次の特性であれば最適なスタガ比や位相補償量を計算することができるだろうと思いますが、実際の回路は複雑な特性を示すので一筋縄では行きません。その原因の多くは出力トランスにあります。今回使用したノグチのPMF−28P−8Kは130KHz〜140KHzの間にゲインが盛り上がるピークを持っています。このようなピークはNFBをかけた時の安定性に影響を与えると考えられます。しかし、今回ぐらいのNFB量(−12dB)であれば適切な位相補償を行うことで問題なく使用できることが実験で確認できました。
実際の位相補償ですが、出力トランスに接続されているβ回路の抵抗1KΩにコンデンサを並列接続して微分補償を行います。β回路に並列接続するコンデンサの容量を変化させた時の周波数特性と10KHzステップ応答特性を下記に示します。
また、アンプの負荷を容量性にすると発振しますから、この対策としてトランス出力とグランド間にRC直列回路を入れます。値は10Ωと0.22μFとしています。
位相補償コンデンサ:330pF
位相補償コンデンサ:1000pF
ここから分かるのは、10KHz矩形波の立上りオーバーシュートは、周波数特性に現れる130KHz〜140KHzのピークが原因であるということです。電圧増幅段と電力増幅段のスタガ比は十分にとっていますから、電力増幅段の周波数特性が1次に近いゆるやかな減衰特性を持っているならば矩形波のオーバーシュートは発生しないはずです。
付加するコンデンサ容量ですが、330pFでも発振せずに動作します。私はキッチリした波形が好きなので1000pFにしたいと思います。
(Ⅵ)その他
Analog Discoveryを使ってステップ応答を見ていた時の話です。測定が終わってPC画面上でSTOPボタンをクリックしたところ、EL84のプレートがみるみる赤くなってくるではありませんか。あわてて電源スイッチをオフにしましたが、時すでに遅し...。EL84は天国行きとなりました。
Analog Discoveryの発振器は、矩形波出力モードでSTOPボタンを押すと出力はゼロボルトになるのではなくHighかLowどちらかの電圧になるようです。今回のアンプは出力段のバイアスをDCアンプ構成の電圧増幅段で設定しているため、入力に入ったDC電圧が増幅されてそのまま球のグリッドに印加されるのです。電圧がマイナス方向であれば球はカットオフするので問題ありませんが、プッシュプルの反対側はプラス方向ですからとんでもないプレート電流が流れます。アンプの入力に直流分が入らないという保障はありません。余計なDC成分がグリッドに印加されないような工夫が必要であるということに気づかされました。そのような目でメーカー製アンプの回路図を見ると、ほとんどの製品の入力にRCハイパスフイルタ(DCカットフィルタ)が入っています。今回のアンプにも何らかの対策が必要です。
(Ⅱ)電圧増幅段の特性
Analog Discoveryを使って電圧増幅段の周波数特性を測定しました。
出力が1Vrms(at 1KHz)になるよう入力電圧をセットした時のカットオフ周波数は985KHzであり、LTsiceを使ってシミュレーションした結果958KHzとほぼ一致しました。十分なスタガ比が得られています。
電圧増幅段の周波数特性(出力電圧1Vrms)
出力が10Vrms(at 1KHz)になるよう入力電圧をセットした時のカットオフ周波数は460KHzです。1Vrmsの時より低い周波数値になる理由ですが、大振幅時の周波数特性はGB積の値ではなくスルーレートの値で決まってくるからです。OPA604のスルーレートは25V/μsです。10Vrmsまで追従できる周波数は、 SR=2πfE 式から 25×1000=2πf×14.1 → f=281KHzとなります。この周波数より高くなると正弦波を入力しても出力は三角波になります。三角波の実効値を計算することでスルーレートに影響されたカットオフ周波数を求めることができます。10Vrms(at 1KHz)にセットしたカットオフ周波数は510KHzと計算されます。測定値と10%程度の差になりました。
電圧増幅段の周波数特性(出力電圧10Vrms)
(Ⅲ)ゲイン配分
NFBをかけないアンプの周波数特性は下記の通りになりました。4オーム負荷、2Vrms=1Wで測定しました。
電圧増幅段+電力増幅段の周波数特性(出力電圧2VrmsNFBなし)
1KHzにおけるゲインは32.3dBです。電圧増幅段のゲインは36.8dBと測定されています。電力増幅段のゲインは−4.5dBとなり設計値より0.4dB大きくなりました。誤差の範囲と考えられます。
下記はNFBをかけたアンプの周波数特性です。位相補正ありです。1kΩと82Ωのβ回路で、仕上がりゲインは仕様通り20dBになっています。
電圧増幅段+電力増幅段の周波数特性(出力電圧2VrmsNFB12dB)
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