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カテゴリー「電源入門」の11件の記事

2017/07/28

電源入門 
 参考書

電源関係の書籍を紹介したいと思います。3冊ともCQ出版社です。


(1)電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計
                              遠坂 俊昭 (著)

理論だけしか書かれていない教科書風の書籍が多い中で、この本は安定に動作するものを作るという思想が貫かれています。設計➡︎シミュレーション➡製作➡測定という各ステップが丁寧に解説されています。



               

第1章 電源回路の概要
第2章 SIMetrix/SIMPLISの使い方
第3章 電源回路に使用される基本素子の特性と動作
第4章 負帰還を理解するための基礎知識
第5章 負帰還の動作と設計
第6章 リニア電源の設計
第7章 リニア・レギュレータの応用設計…Dual CVCC実験用電源
第8章 スイッチング電源の動作
第9章 Buckコンバータの設計・製作・評価
第10章 積層セラミック・コンデンサを使用したBuckコンバータの設計・製作・評価
第11章 電圧モードBoostコンバータの設計・製作・評価
第12章 電流モードBoostコンバータの設計・製作・評価



(2)作りながら学ぶエレクトロニクス測定器
                             本多 平八郎 (著)

名著です。この本の内容を完全に理解したならばプロのエレクトロニクスエンジニアとして通用します。全ての測定器をソフトウエアに頼らずハードだけで実現しているところが立派です。

               

第1章  電子回路の製作テクニック
第2章  パルス&パターン・ジェネレータの設計と製作
第3章  直流電子負荷の設計と製作
第4章  低雑音電源装置の設計と製作
第5章  交流標準信号発生器の設計と製作
第6章  ユニバーサル・アンプの設計と製作
第7章  低雑音ヘッド・アンプの設計と製作
第8章  高入力インピーダンス・ヘッド・アンプの設計と製作
第9章  交流電流検出用ヘッド・アンプの設計と製作
第10章 直流電流検出用ヘッド・アンプの設計と製作
第11章 交流/直流ディジタル電圧計の設計と製作
第12章 ひずみ率計の設計と製作
第13章  CR正弦波発振器の設計と製作
第14章  簡易型低雑音電源の設計と製作
第15章  クロック・シンセサイザの設計と製作



(3)実用電源回路設計ハンドブック
                             戸川 治朗 (著)

説明に使われている素子に古さを感じますが、基本は今も昔も変わりません。



               

第1部 ドロッパ型レギュレータの設計法

第1章 整流回路の設計法
第2章 もっとも簡単な安定化電源
第3章 3端子レギュレータの応用設計法
第4章 シリーズ・レギュレータの本格設計法
第5章 シリーズ・レギュレータ設計ノウハウ

第2部 スイッチング・レギュレータの設計法

第1章 スイッチング・レギュレータのあらまし
第2章 チョッパ方式レギュレータの設計法
第3章 RCC方式レギュレータの設計法
第4章 フォワード・コンバータの設計法
第5章 多石式コンバータの設計法
第6章 DC-DCコンバータの設計法
第7章 無停電電源の設計法
第8章 高圧電源の設計法
第9章 雑音を小さくするさまざまな工夫

2017/03/17

電源入門
電源回路に使う部品その2

(3) 線材

屋内で交流 300V 以下の小形電気器具に使用する電線にはVSF、HVSFがありJIS C 3306で規定されています。
市販されているVSFケーブルの導体サイズは0.5sqからがほとんどですが、探せば0.3sqもあるようです。
VSF電線の定格温度は60℃ですが、HVSFは105℃品となっています。


600V 以下の主に電気機器の配線に用いる電線にはKIV、HKIVがありJIS C 3316で規定されています。
メーカカタログの導体サイズは0.5sqからのようですが、販売店で見かけるのは太いものが多いです。


電線に関してはUL品に絶対の信頼を寄せている方も多いと思います。また、金や銀その他の音が良くなると言われる材質にこだわったり、音のよくなる方向があるという意見があったりと話題に事欠きません。


私はというと、入手性と色の多さから300VのVSF電線と600VのUL1015電線をを使っています。VSF電線はメッキなしでUL1015電線はメッキありです。メッキの有無を気にされる方もいらっしゃるようですが、私は気にしていません。それより配線がしやすい屈曲性だったり、高温がかかっても丈夫な被覆だったりの方が大切と思います。ただ、メッキ線の方が半田付けしにくいです。予備はんだをする際にちゃんとはんだが付いているか確認しづらいですし、芋半田になっていることも時々あります。メッキなしの電線より半田ごての温度を高めした方が良いようです。



Photo
ダイエイ電線のVSF電線


Ul
協和ハーモネットのUL1015電線



(4) コネクタ


商用電源の引き込みにはIECインレットタイプのコネクタを使います。以前は雑誌記事の評論を見てフルテック製を使っていたのですが、半田付けの際に熱変形してケーブルの抜き差しが固くなるということがあり、現在はオヤイデ電気製の174−Rという熱変形しにくい製品を使っています。



Photo_2
オヤイデ電気製IECインレット 174−R




古い製作記事で、商用電源の引き込みにキャノンタイプのコネクタを使ったものを見たことがあります。キャノンタイプのコネクタの仕様は下記の通りで、定格電圧を見る限り使うことは可能なようです。

 2ピン     : 定格電圧 200 VAC
             耐電圧   1600 VAC
 3〜7ピン : 定格電圧 133 VAC
            耐電圧   1400 VAC


次にB電源を接続できるようなコネクタですが、入手性の良いヒロセのHR10シリーズを見てみます。シェルサイズ7の製品仕様は下記の通りです。定格電圧が低くて、使うのは難しいです。

 4ピン   : 定格電圧 150 VAC 200 VDC
           耐電圧    300 VAC


カタログを色々見ていったのですが、防水タイプのコネクタに定格電圧の高い製品があるのを見つけました。KT88ULアンプでは航空電子のN/MS−A/Bシリーズを使いました。シェルサイズ12Sの仕様は下記の通りです。

 2ピン   : 定格電圧 500 VAC 700 VDC
           耐電圧   2000 VAC

防水タイプのコネクタはサイズが大きくて価格もそれなりなのですが、取り扱う電圧が高い場合には安心して使えます。
ちなみに、耐電圧は瞬間的(多くは1分間)に耐えられる電圧ということであって、連続的に印加してよい電圧ではありません。



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航空電子のN/MS−A/Bシリーズ シェルサイズ12S




(5) 基準電圧


基準電圧としてはツェナーダイオード、電流源としては定電流ダイードが一般的です。



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ツェナーダイオード1N4733(左)と定電流ダイオードE−102(右)



ツェナーダイオードを使う際に注意する点は、参考文献にあるように以下の3点です。

 ・温度係数 
 ・動作抵抗
 ・雑音電圧

5〜6Vより下の電圧では負の温度係数を持つツェナー降伏が支配的で、上の電圧ではアバランシェ降伏が支配的です。従って、温度特性を第一に考えるならば5.1V品か5.6V品を使うのがよいと思います。

電圧の安定性に大切な動作抵抗は、流す電流によって変化するようですが、6〜7Vにおいて最小となります。動作抵抗を最小にしたいときは、6.2V品か6.8V品を使うのがよいと思います。

ノイズはアバランシェ降伏によって発生しますから、ノイズを最優先に考えるならばツェナー降伏が支配的な低い電圧値を選ぶべきです。ノイズを取るためにコンデンサをパラ接続することがよくあります。コンデンサパラ接続よりも、できればCRフィルタにしたいところです。


定電流回路はトランジスタやFETを使っても構成できますが、石塚電子の定電流ダイオードを使うと部品点数が削減できます。最高使用電圧が規定されていますからこれを超えないようにすることと、定格電力にマージンを持った使い方をすることに注意しましょう。


ツェナーダイオード以上の精度と安定性を求めるのであれば、基準電圧ICを使う方法があります。



Ad587
AD587(左)とマイナス基準電圧の作り方(右)



上の写真は10Vの基準電圧IC、AD587です。レーザ・トリミングされていて非常に高精度で温度安定性の高い石となっています。これほどの性能が必要ない場合、数分の一の価格でピンコンパチ品が色々あります。
販売されている基準電圧用ICはほとんどがプラス電圧出力になっています。マイナスの基準電圧が欲しいときには上図右の方法を採用するとよいでしょう。





参考文献:
  黒田徹、初めてのトランジスタ回路設計、CQ出版、1999、p.202−203
  本多平八郎、作りながら学ぶエレクトロニクス測定器、CQ出版社、2001、p.69−70




2017/03/10

電源入門
電源に使う部品

(1) トランス


最近はもっぱらフェニックス製のRコアトランスを使用しています。巻線の仕様を指定して2週間程度の短納期で仕上がってきます。価格も手頃でアマチュアには心強い存在です。

しかし問題がないわけではありません。それは唸りと鳴きが大きいことです。個体間のばらつきもあるようで、KT88用に製作した2台のうち片方は「ブーン」という低い唸り音が聴こえ、もう一方は「ジー」という鳴きの音が聞こえてきます。メーカーホームページには”うなり振動が小さい”と書かれていますが、多くの方が困っているようです。超3極管接続で有名な上条信一氏の記事にも、Rコアトランスを使って苦労した様子が書かれています。

Treasure SIT becomes a power amp

上条信一氏の製作記事には具体的な対策が書かれているものがあります。下記の記事には、商用電源のDC分を無くすDCサプレッサが使われています。また、機器間のグランドループに起因する誘導ノイズの対策方法も紹介されています。使用しているトランスはRコアではなくトロイダル型です。

2SJ200 / 2SK15292 パワーアンプ


金田式アンプ用として売られているRコアトランンスはどのような対策が施されているのか知りたいところです。


頼んだことは無いのですが、春日無線が伏せ型電源トランスの特注に応じてくれるようです。気になる容量ですが、O-BS700は200VA、O-BS1000は300VA、O-BS1500は500VAと十分です。引き出せる端子数は、それぞれ14本、16本、18本となっています。価格はRコアと比べて3〜5割増しといったところでしょうか。



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フェニックス製Rコアトランス(左)とタンゴ製伏せ型トランス(右)



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タンゴ製ヒータトランス(左)とチョークコイル(右)





(2) ヒューズ


ヒューズに求められる機能は、通常の動作では切れなくて異常時には速やかに切れることです。これをKT88アンプで使用したトランス(フェニックスRA400型)をシミュレーションして確認していきます。まずトランスの巻線仕様です。

   一次側直流抵抗 : 0.41Ω
   二次側直流抵抗 : 5.24Ω(外側)
             4.92Ω(内側)
   巻き数比    : 1.94



◯定格負荷時



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DC負荷500mA時の一次巻線電流は4Armsです。この値で切れないヒューズが必要です。



◯起動時



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シミュレーションでは、トランスの一次側に半波76.6Ao−pの電流が流れるという結果が出ました。これは二次側のコンデンサに流れ込む充電電流が主な成分で、トランスのB−Hカーブに起因する分は含まれていません。よって、シミュレーション結果を突入電流の全てと考えてはいけません。

実際のトランスでは電源投入時に大きな磁束密度の変化が生じ最大磁束密度をオーバーして磁気飽和を起こすことがあります。この現象は二次側がオープンでも発生します。

トランスが完全に飽和すると 141V ÷ 0.41Ω = 345A のピーク電流が流れることになります。実際にはケーブルの抵抗やコンセントの接触抵抗があるので、ピーク電流の値はもっと少なくなると考えられます。ここでは、141V ÷ 1Ω = 141A を最大値とします。半波ピーク141Aで使用し続けても劣化もしないヒューズが必要です。


注記)
LTSpiceは線形シミュレータですが、トランスのB−Hカーブを入れることができます、Webで検索すると色々出てきますので試してみると面白いと思います。ただ、トランスの磁気パラメータをどうやって測定するのかという課題は残ります。



◯負荷ショート時



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整流出力をショートすると200App(実効値で70A)の電流が流れます。しかし、トランスのB−Hカーブによる磁気飽和の影響があり、実際にはこれより小さな値になると予想されます。従って、起動時や定格動作時に切れないことを考慮した上で、短時間で溶断するヒューズ値が必要になります。



◯溶断特性からヒューズを選択する

トランスの一次側には大きな突入電流が流れますから、速断タイプではなくタイムラグタイプのヒューズを選択しなければいけません。そして、5Aとか10Aという定格溶断電流の値だけを見るのではなく、溶断特性カーブを見て値を選択すべきです。

下図は私がよく使用する日本製線製のFSL型ガラス管ヒューズの溶断特性カーブです。



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定格負荷時の一次巻線電流は4Arms(緑色の線)ですから、この2倍以上のマージンが必要です。電流8Aで切れないということで選択すると、ヒューズ定格は4A以上必要であると読み取れます。


負荷ショート時に70Aで1秒以内に切れるという条件には全ての定格値が当てはまります(赤の線)。他の条件が許すならば、ヒューズ定格はできるだけ小さな値を選択すべきです。


起動時の突入電流については溶断特性カーブ(オレンジ色の線)から判断してはいけないということになっています。電流二乗時間積(I2t)の25%以内で使うこと、と日本製線のカタログに書いてあります。141A半波(60Hzで8.3ms)のI2tは、0.5X141X141X0.0083=82.3です。しかし、日本製線のカタログに規格値は書いてなくて、”営業にお問い合わせください”になっています。仕方ないので、Digi-Keyで5X20mmの10Aガラス管タイムラグヒューズを5種類ほど調べたところ、その値は400から568でした。10Aのヒューズであれば、I2tの25%以内で使うことができそうな気がします。しかし、イレギュラー時に確実に切れることを考えると、8Aもしくは6.3Aを選択した方が良いかもしれません。



Fsl
日本製線製のFSL型10Aガラス管ヒューズ



2017/03/03

電源入門
スイッチングレギュレータの製作例

ロボット競技のお手伝いした時に製作したDC−DCコンバータを紹介します。電池から昇圧型コンバータを使って+16Vを得、その後段の降圧型コンバータで+5Vを得ています。



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使用しているICはTIのMC33063で、降圧用にも昇圧用にも使える便利な石です。しかし、内蔵されているスイチング素子はバイポーラで外部のダイオードは同期制御していません。スイッチング周波数は100KHzと現在の水準から見ると低めです。電源としての性能はそこそこでした。

記憶がはっきりしていないのですが、DIP8ピンのパッッケージがあって作りやすいことと動作電圧範囲が広いこと、入手性がよく安価なことが採用の決め手になったと思います。



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昇圧回路



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降圧回路



入力を10Vとし、+5V電源に負荷をかけた時の電圧変動と両電源トータルの効率をプロットしたのが下図になります。トータルの効率は60%台になっていますが、+16V電源、+5V電源それぞれの効率は80%台です。電圧変動は、ロボット用なのでこれで十分だと思います。



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電圧変動



負荷電流を100mAとし、入力電圧に対する出力電圧の変動をプロットしたのが下図です。電池駆動なので電圧低下に対してどこまで耐えられるかを試験しました。+5Vは+16Vの後に配置されているので、データとしては意味がありません。入力電圧が2.6Vでもちゃんと動作するのには驚きました。



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最低動作電圧




2017/02/24

電源入門
スイッチングレギュレータ

オーディオ装置や測定器等一部の例外を除いて、近年はほとんどの機器にスイッチングレギュレータが使われています。私はロボット競技をお手伝いした時に少しだけかじった経験があります。スイッチング電源というととっつきにくい印象ですが、回路や電子部品を深く知る上でとても良い教材だと思います。

スイッチング電源の分類ですが、基本的にAC−DCコンバータとDC−DCコンバータの2種類に分けられます。



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AC−DCコンバータはAC入力を整流してDCにする回路とスイッチングコンバータから構成されます。我々が使う用途では、AC入力とは商用電源の100Vまたは200Vのことです。テーブルタップの上を占拠している"ACアダプター"もAC−DCコンバータです。

DC−DCコンバータはスイッチングコンバータのみです。電池で動作する機器や自動車に搭載される機器には必須の電源となっています。また、最近のコンピュータではCPUやGPUが高速大電力なため素子の近くにPOL(Point of Load)レギュレータという専用のDC−DCコンバータが置かれています。


次にスイッチングコンバータの方式ですが、大きく分けて以下の4種類です。

 ・降圧型コンバータ
 ・昇圧型コンバータ
 ・フライバックコンバータ
 ・フォワードコンバータ

前二つは非絶縁タイプ、後二つは絶縁タイプです。いずれの方式でもトランジスタやFETがスイッチとして使われていて、そのオンオフの周波数は数10KHz〜数MHzの可聴帯域外となっています。トランスは流す電流の周波数が高いほどコアの断面積が小さくて済むため、電流容量の割にサイズが小さいという印象を持たれると思います。



下図は降圧型コンバータを説明したものです。

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下図は昇圧型コンバータを説明したものです。

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下図はフライバックコンバータを説明したものです。

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下図はフォワードコンバータを説明したものです。

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アマチュアにも製作できるのはDC−DCコンバータです。AC−DCコンバータはお勧めできません。

理由の第一は、周囲にノイズを撒き散らかす危険があるからです。

ノイズには、電磁波(放射ノイズ)と電源ケーブルを伝って出てくるノイズ(伝導ノイズ)の二つがあります。発生するノイズの量をこれ以下にしなさいという規制があり、これをEMI(電磁妨害放射規制)と言っています。

一方、受ける方にも規制がありEMS(電磁妨害耐量)と言っています。

EMSに則っている機器は、EMIで規定された規格を守っている機器が近くに来ても誤動作しないということですね。

これらの規制は、米国ではFCC(米国連邦通信委員会)が定める国家ルールですが、日本ではVCCI(情報処理装置等電波障害自主規格協議会)という団体が策定する自主規制ルールです。

しかし、自作のAC−DCコンバータがこれらの規制値を守ることはまず不可能です。家族や近所からテレビやラジオに雑音が入るといったクレームが来るかもしれません。


二番目の理由は、商用電源に直接つながる回路なので危険が大きいということです。家のブレーカが飛んだり感電したりという事も考えられます。




参考文献:
  岡山努、スイッチングコンバータ回路入門、日刊工業新聞社



2017/02/17

電源入門
シャントレギュレータとシリーズレギュレータ

安定化回路にはシャントレギュレータとシリーズレギュレータとがあります。



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シャントレギュレータは制御素子が負荷と並列に接続され、シリーズレギュレータは制御素子が負荷と直列に接続されるという違いです。




(1)シャントレギュレータ

シャントレギュレータは制御素子の電力消費が大きくなりがちで、負荷電流が小さな回路や基準電圧源として使われます。もっとも代表的な素子にTL431があります。


この石は外部に抵抗を接続することで2.5Vから36Vの任意の出力電圧を得ることができます。また電圧精度も0.5%〜2%と高いので基準電圧源として使うことができます。


大概のシャントレギュレータは最小動作電流が規定されています。TL431の場合は1mAです。また、出力にコンデンサを並列接続する時のために安全動作する領域がグラフで示されています。これらの条件を満足しない場合、発振する可能性があります。



Tl431



(2)シリーズレギュレータ

シリーズレギュレータですが、比較増幅器にトランジスタやFET等のディスクリート素子を使う回路とオペアンプを使う回路とがあります。ディスクリート素子を使ってもオペアンプを使っても負帰還回路である事にかわりはありません。安定性には十分配慮すべきです。


ディスクリート型の良い点は、扱う電圧が高くなっても外部電源が不要であるという事です。一話完結型の回路は大変魅力があります。ただ、レギュレータの特性(出力インピーダンスや安定性など)は使う素子のばらつきによって変化するという点に注意しなければいけません。回路構成や部品の選択には気を使う必要があると思います。


ここでは、参考文献に載っているシリーズレギュレータを題材として動作の解析とシミュレーションを行いたいと思います。



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上図の左側は参考文献掲載の回路図です。動作を理解しやすくするために簡略化したのが右側の回路図です。回路図の下に示した計算式から分かるように、電源の特性を良くするにはQ1を中心とした比較増幅器のゲインを大きくする事が必要です。


安定性をシミュレーションした結果が下図になります。



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シミュレーション回路


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安定性のシミュレーション結果



Q3のコレクターとQ4のコレクターの間に信号源を配し、そのマイナス側とプラス側の比をプロットしたものがループゲインのボーデ線図(上図)になります。ループゲインがゼロになるのは22.7KHzで、そのときの位相余裕は95degでした。安定な回路だと言えます。この回路は、Q3のコレクタ・ベース間に入っている位相補償コンデンサと出力コンデンサの内部抵抗が安定性の肝となっています。


バイポーラトランジスタのモデルは遠坂俊昭氏の「電子回路シミュレータLTspice実践入門」のCD−ROMに入っていた物を使いました。




参考文献は、レギュレータ回路だけでなく超低歪率発振器など興味深い回路が満載です。ぜひ、購入してクラフトオーディオの役にたてていただきたいと思います。



参考文献:
  黒田徹、初めてのトランジスタ回路設計、CQ出版、p.199−226

2017/02/10

電源入門
整流回路

主な整流回路3種類を紹介したいと思います。

(1) ブリッジ整流回路

両波整流回路の一種です。
EL84ppアンプのB電源整流回路をシミュレーションしました。
電源トランスは、フェニックスのRA150タイプです。
負荷電流は100mAとしています。




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シミュレーション回路


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起動時の出力電圧(赤)とトランス二次側電流(青)


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安定時の出力リップル電圧(赤)とコンデンサ電流(青)




まずダイオードに流れるピーク電流を把握し、「尖頭順サージ電流」の絶対最大定格がピーク電流を上回っている事を確認します。起動時、トランスに流れる電流(=ダイオードに流れる電流)のピーク値は7.5Aに達しています。整流電圧が安定すると0.6Aに減少しますから、起動時の電流は定常時の10倍を超える大きな値になっている事がわかります。


ブリッジ整流回路では、ダイオードのアノード/カソード間に印加されるピーク電圧がトランス定格電圧の1.4倍になります。「尖頭逆方向電圧」の絶対最大定格は、商用電源の電圧変動やアンプ内の負荷変動を考慮して、トランス定格電圧の2倍以上欲しいところです。


出力電圧が安定した後の電流は、ピーク値0.6A、実効値0.2Arms弱になりました。DCの負荷を0.1Aとっていますから、トランスにはDC値の倍の電流が流れていることになります。ブリッジ整流のDC電流はトランスAC定格電流の60%程度取れると一般に言われていますが、シミュレーションでは約50%という結果になりました。この割合はトランスの巻線仕様で変わってきますから、実際に確認されるのがよいと思います。


ダイオードに流れる電流と「順方向電圧」をもとに熱計算を行い、ジャンクション温度に対してマージンがあるか確認します。ヒータ電源以外では流れる電流が数百mA以下なので、よほど小型のダイオードを使わない限り電力損失による発熱が問題になる事はないと思います。


さらに、コンデンサの「定格リップル電流」に対してマージンがあるかどうかも確認します。コンデンサに流れる電流ははダイオード側から流れ込む電流と負荷側に流れ出す電流の和になります。上図の場合、コンデンサに流れる電流の実効値は190mAでした。コンデンサに電流が流れると内部の抵抗分によって電力損失が発生し発熱します。電解コンデンサは寿命品で、電流による自己発熱と周囲温度が影響します。家庭で使う限り24時間通電しっぱなしということはないでしょうが、高温の真空管近くに置かれたりもしますから自己発熱はできるだけ少ない方がよいと思います。


リップル電圧は3.3Vppもあり、このままではハム音に悩まされる事になると思います。後段に何らかのフィルター回路、もしくは安定化回路が必要です。




(2) 半波整流回路

ACサイクルの半分しか使わないので効率の悪い整流方式です。
真空管アンプ用の電源トランスでは、C電源巻線とB電源巻線とが共通のコモン端子で構成されている事が多く、C電源の整流回路でよく使われています。

(1)のトランスで半坡整流回路をシミュレーションしてみました。



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シミュレーション回路


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起動時の出力電圧(赤)とトランス二次側電流(青)


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安定時の出力リップル電圧(赤)とコンデンサ電流(青)



起動時に流れる電流のピーク値はブリッジ整流回路と同じですが、ACの半部しか使っていないので出力電圧の立ち上がりが遅くなっています。


リップル電圧は7.2Vp-pと大きな値となりました。整流用のコンデンサ容量を220μFから470μFに増やした時の結果が下図になります。リップル電圧は3.1Vp-pに減少しました。このことから、半波整流回路のリップル電圧を両波整流回路と同じにするには、整流用コンデンサの値を倍にすればよい事が分かります。




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(3) 両波整流回路

一般的なB電源回路では、ダイオード2本を使ってプラス電圧を得る回路構成になります。ダイオードを4本使ったブリッジ構成にすると、コモン端子に対して正負の整流電圧を得る事ができます。コモン端子を出力として用いなければ、KT88ULアンプで使った倍電圧整流回路になります。


KT88ULアンプに使用したB電源用の倍電圧整流回路をシミュレーションしました。
電源トランスは、フェニックスのRA400タイプです。
負荷電流は100mAとしています。



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シミュレーション回路



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起動時の出力電圧(赤)とトランス二次側電流(青)



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安定時の出力リップル電圧(赤)とコンデンサ電流(青)



起動時のピーク電流は19Aです。実際に使用したダイオードはロームのSCS105KGで「尖頭順サージ電流」の絶対最大定格は60Hz半波で21A、ギリギリですね。


両波整流回路では、ダイオードに印加される電圧はトランスの定格電圧の約2.8倍になります。「尖頭逆方向電圧」の絶対最大定格はトランス定格電圧の3倍以上欲しいところです。
使ったトランスの定格電圧は185Vなので、ダイオードの両端には523Vがかかるはずです。シミュレーションでは、ダイオードの両端に540Vかかるという結果になっています。SCS105KGの「尖頭逆方向電圧」は1200Vなので十分な値です。


リップル電圧は2Vp-pとなりました。



下の写真はKT88ULアンプに使用した倍電圧整流基板です。




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整流回路に使われるダイオードとコンデンサについて復習です。


◯ダイオード
  ・逆方向回復時間
     ノイズの発生量に(音質にも?)関係します
     ショットキー等の高速タイプを使った方がよいです
  ・尖頭逆方向電圧
     整流方式によって必要な耐圧が違ってきます
  ・尖頭順サージ電流
     起動時にはチャージゼロのコンデンサとトランスがダイオードでショートされ
     大きな電流が流れます
  ・順方向電圧
     電力損失を計算するときに必要です

◯コンデンサ
  ・定格電圧
     一次側の電圧変動やチョークコイルを使ったときの電圧振動も考慮します
     瞬時最大印加電圧が規定されている製品もあります
  ・定格リップル電流
     コンデンサの充放電電流の規格ですが、寿命に大きく影響します



近年、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を応用したショットキーダイオードが製品化されるようになりました。これらのダイオードは高速でリカバリー時間が短いため、低損失でスイッチングノイズの小さな回路が実現できます。さらに、耐熱温度も高いので熱設計が楽になり筐体を小型化できる可能性があります。


オーディオ関係でも使用例が増えてきましたが、多くは現代社会で活躍する産業用機器(スイッチング電源やインバータ)で使われています。スイッチング電源やインバータ器機は目的の電圧や電流を得るためにPWM制御が行われており、そのため電流や電圧が高速でスイッチング(ON/OFF)しています。電流が流れるルートに入るダイオードは、機器の性能とりわけノイズ量や電力損失に大きく影響してくる重要な部品の一つです。





参考文献:
  戸川治郎、実用電源回路設計ハンドブック、CQ出版、p.14−27

2017/02/03

電源入門
チョークコイル

前回のブログで、タンゴの電源トランスME−275を測定しLTSpiceのモデルを作成しました。
今回は、チョークコイルを使った整流回路の動作をシミュレーションしたいと思います。
使用した電源トランスとチョークコイルの仕様は下記の通りです。


電源トランス(タンゴ ME275)
     320~280-0-70-280~320Vの320V巻線
       一次側直流抵抗  :  0.967Ω
       二次側直流抵抗  : 30.7Ω(外側)
                                    29.4Ω(内側)

       巻き数比             :  3.4
       インダクタンス      :  1.1H(一次側)
                                    12.7H(二次側)

チョークコイル(タンゴ MC-10-200D)

       巻線抵抗            : 95Ω
       インダクタンス      : 10H


下図はシミュレーション回路です。
コンデンサでチョークコイルを挟んだπ型フィルタを構成しています。コンデンサの容量は両方とも47μFです。チョークインプット型ではなく、コンデンサインプット型のはずです。



Photo



下の写真は実験風景です。10数年前に製作したEL34アンプの残骸で実験しています。一次側はスライダックを使って電圧調整しています。



Photo_2



下図左は整流後電圧のシミュレーション結果、下図右は実測波形です。一次側電圧は、部品選択の制限があるため定格半分の50Vにしています。シミュレーションと実測の波形、ほとんど同じ結果となりました。



Photo_3



ここ結果で注意しなければいけないのは、出力電圧が振動していて安定するまでに時間がかかるということと、その振動電圧のピーク値が330Vとかなり大きいということです。入力電圧が定格の100Vの時には660Vとなりますから、コンデンサの耐電圧が気になります。


おそらく、整流管を使えば整流電圧の立ち上がりを遅くして振動を小さくすることができるので、この現象による弊害を回避することが可能だと思います。ダイオード整流では、負荷である出力管が暖かくなる前に電圧が立ち上がってしまいますから、この現象から逃れることはできません。



そこで、出力側のコンデンサ値を47μFから1000μFまで変化させてシミュレーションしてみました。



Photo_4

Photo_5



シミュレーション結果ですが、左は出力電圧で右はチョークコイルを流れる電流です。この結果から、出力側のコンデンサ値を470μFにすると振動が収まることが分かりました。しかし、その時にコイルを流れる電流のピーク値は730mAに達しています。一次側の電圧を定格の100Vにすると倍近くの電流が流れます。MC-10-200Dの電流最大値は260mAとなっているため、普通に考えるとコアが飽和してもっと大きな電流(計算では4Aほど)が流れると予想されます。


ここまではほとんど無負荷で見てきましたが、下図は100mAの負荷をとった時のシミュレーション結果です。振動は少し収まるようです。



Photo_6





肝心のリップル電圧ですが、シミュレーションでは以下のようになりました。チョークコイルの効果は大きいです。

47μF                                 :    10000mVp-p
470μF                                :     1600mVp-p
4700μF                              :       180mVp-p
47μF+MC-10-200D+47μF    :        60mVp-p
47μF+MC-10-200D+470μF  :          6mVp-p


2017/01/27

電源入門
電源トランス 〜シミュレーションモデルの作成〜

LTSpice等のシミュレーションソフトを使うと、整流回路の動作が組み立て前に確認できてとても便利です。しかし、トランスの等価回路をどう考えればよいか、パラメータの抽出(測定)はどうしたらよいのか等敷居が高いと感じるのも事実です。でも、オーディオで使う電源トランスであればそれほど難しくないので紹介したいと思います。



Photo



上図はトランスの等価回路です。

漏れインダクタンスL1とL2はコアに巻かれた巻線のうち電力伝達に貢献しない部分です。巻き方によって大小差がありますが、どんなトランスにも存在する役に立たない無駄飯食いの部分です。励磁インダクタンスL3はコアに巻かれた巻線のうち電力伝達を担う部分です。


R1とR2は銅損と呼ばれます。巻線の直流抵抗分です。


R3は鉄損と呼ばれます。巻線に電流が流れるとコア材に渦電流が流れ、これにより熱が発生します(電磁調理器の原理です)。さらに、交流電流が流れると内部の磁極が反転を繰り返し、これによりエネルギー損失が生じます。これら、銅損以外の損失を鉄損と呼びます。トランスの仕様で鉄損がどれだけかを表す場合、抵抗値(Ω)ではなく損失(W)での表示となります。



LTSpiceにはトランスモデルは用意されていませんから、等価回路をそのまま入力することはできません。LTSpiceでトランスはどう考えればよいのか、等価回路中の理想トランス、L1、L2、L3、(L4)について説明したのが下図になります



Ltspice



前記等価回路では励磁インダクタンスを一次側だけに設けていましたが、上図左では二次側にも置いています。

LTSpiceでは、結合係数kと巻数比nで関係づけられた、それぞれLaとLbのインダクタンスを持つ二つの巻線で考えます。Laは一次側漏れインダクタンスL1と一次側励磁インダクタンスL3の和です。Lbは二次側漏れインダクタンスL2と二次側励磁インダクタンスL4の和です。漏れインダクタンスと励磁インダクタンスの割合をkとしています。二つの巻線の巻数比はnで与えられます。

一次側インダクタンスLaと巻数比n、結合係数kを与えれば他の定数はすべて決まります。実際、LTSpiceではそのような仕様になっています。




商用電源につなげる電源トランスでは、扱う周波数が50Hzもしくは60Hzと低いので漏れインダクタンスの影響はほとんど受けません。漏れインダクタンスL1=0、L2=0とするならば、上図からK=1が導き出されます。
周波数が低いということで浮遊容量の影響も受けませんから、C1=0、C2=0で考えれば良いということなります。
損失という観点で見ると鉄損の影響は大きいのですが、我々がトランスの磁気特性を得ることは難しく、仮に得られたとしてもLTSpiceにはこれを組み込む機能が標準で用意されていません。ということで、無視(R3=∞)して考えます。
以上の考察から、シミュレーションに必要な定数は下記の3つということになります。

  ① 一次、二次直流抵抗
  ② 巻数比
  ③ 一次側インダクタンス




タンゴのトランスME−275を実際に測定してみます。



Me275
ME−275(左)とインダクタンス測定回路(右)



①一次、二次直流抵抗
すべての巻線を開放状態にします(測定器以外は何も接続しない)。テスターもしくはマルチメータで測定できます。一次巻線やヒータ巻線は値が小さいので、4端子法で測定するべきかと思います。

   一次側直流抵抗 : 0.967Ω
   二次側直流抵抗 : 30.7Ω(外側)
                    29.4Ω(内側)

②巻数比
すべての巻線を開放状態にします(測定器以外は何も接続しない)。一次側に発振器を接続します。周波数は50Hz〜数百HZ、電圧は1Vrms〜5Vrmsぐらいです。テスターもしくはマルチメータで一次側と二次側の電圧値を測定します。一次側の電圧をV1、二次側の電圧をV2とすると巻数比nは、n=V2/V1で計算できます。

   巻き数比    : 3.4

③一次側インダクタンス

Photo_2
インダクタンス測定回路図



測定は平衡ブリッジ法で行っています。オペアンプを使わずに抵抗だけでも測定できます。電圧はマルチメータで測定しました。
Analog Discoveryでの測定を試みましたが、トランスのインダクタンスが大きいため低い周波数で波形が安定するのに時間がかかり正確な値が得られないようです。



Me275_2
ME−275一次側インピーダンス測定結果



測定結果ですが、右上がりで値が増加していき、3KHzがピークでその後値が下がっていきます。

3KHzより下では鉄損の影響が大きいようです。等価回路で描かれているような励磁インダクタンスと鉄損の並列回路というわけではなく、非線形性を持った複雑な回路のように見受けられます。

3KHzのピークはインダクタンスと浮遊容量の共振点です。トランスから「キーン」という音が聞こえてきました。3KHzより上の値は浮遊容量が支配的です。

60Hzのインピーダンスは414Ωでした。この値が”純”インダクタンスだとするならば、414÷(2πf)=1.1Hと計算されます。

250Hzのインピーダンスは775Ωで、インダクタンスは0.5Hと計算されます。鉄損の影響が少なくなる1KHzのインピーダンスは1560Ωで、インダクタンスは0.25Hと計算されます。どの値を使えばよいのか分からなくなりますが、整流回路のシミュレーションを行う限り、どの値を使っても差はありません。



では実際にLTSpiceでトランスモデルを作成してみましょう。


Photo_3


回路図を開き、まずインダクタを配置します。MAC版ではファンクションキーF2を押すと部品選択画面になります。ここでは極性付きの”ind2”を使います。


Photo_4


次に巻線の直流抵抗を配置します。


Photo_5


素子と素子をつなげていきます。MAC版ではファンクションキーF3を押すと配線モードになります。次に各素子の値を入れていきます。二次側のインダクタンスは、一次側インダクタンス X 巻数比 X 巻数比 で計算できます。1.1 X 3.4 X 3.4 = 12.7 です。


Photo_6


次がこの作業の重要ポイントです。結合係数kをSpice Directiveで設定します。Windows版であれば、ツールバー一番右にある”.op”アイコンをクリックします。MAC版であれば、キーボードの”s”を押します。そうするとEdit Text on the Schematic画面が開きますから、「K1 L1 L2 L3 1」と入力します。






参考文献:
  遠坂俊詔、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版社、p.61−69

2017/01/20

電源入門
安全性

(1) 感電防止

私がかって経験した痛い思い出を二つほど紹介したいと思います。

・会社の仕事場でAC100Vの両端をドライバーでショートさせてしまい、
 ブレーカが飛んで仕事場のフロア全体が停電したことがあります。
 ショートした現場は真っ黒焦げになっていました。

・811を使ったアンプの実験中でした。
 間違って、600V電源のFETリップルフィルタに触ってしまいました。
 一瞬何が起こったかわからず、しばらくしてから感電したと気がつきました。
 手には白い傷ができ、痛みがしばらく消えませんでした。

商用電源の一次側を触って電流が心臓を通ると生死に関わる大事故になります。また、二次側であっても感電したショックで倒れて怪我をしたり、払いのけようとして周囲の物を壊してしまうといった事故につながります。真空管は数百Vの電圧を扱うので、感電等の事故が発生しないように細心の注意を払うべきであると思います。




(2) 絶縁距離

絶縁に必要な距離はどのくらいあればよいのかを安全規格から読み解いていきます。


JIS C 1010-1(測定、制御及び研究室用電気機器の安全性)を参考にします。この規格は国際電気標準会議IECのIEC61010-1とほぼ同一の内容です。

まず、「過電圧カテゴリ(Overvoltage Category)」と「汚染度(Pollution Degree)」という2つの言葉を知るところから始まります。


◯過電圧カテゴリ
機器(回路)が置かれる場所をⅠからⅣで区分しています。
(正確に言うと、過渡的な過電圧の大きさによって場所を区分しています)

CAT.Ⅰ: コンセントに接続した機器の絶縁された2次側
CAT.Ⅱ: コンセントに接続した機器の1次側
CAT.Ⅲ: 分電盤からコンセントまで
CAT.Ⅳ: 分電盤から外(分電盤を含む)

◯汚染度
言葉通りで、機器が置かれている周囲の環境を1から4で区分しています。

汚染度1: クリーンルームまたは密閉された容器内
汚染度2: 家庭やオフイスの一般環境
汚染度3: 工場内の環境
汚染度4: 屋外環境



真空管アンプの二次側回路は、過電圧カテゴリⅠ&汚染度2で考えればよいことになります。

  300V以下 空間距離    0.5mm
  600V以下 空間距離    1.5mm

真空管アンプの二次側回路をプリント基板で構成する場合、過電圧カテゴリⅠ&汚染度1  または汚染度2のコーティング(レジスト)ありで考えればよいことになります。両者の値は同じです。

  300V以下 プリント基板上 0.7mm
  600V以下 プリント基板上 1.7mm



米国の安全規格といえばULです。UL840(電気設備のクリアランスと沿面距離)が一般に知られています。プリント基板上における絶縁に必要な距離は、14ページ ”表6.2 プリント配線板における許容可能な最小沿面距離” から読み取れます。

  320V以下 汚染度1    0.75mm  
              汚染度2    1.6 mm  
  500V以下 汚染度1    1.3 mm  
              汚染度2    2.5 mm  

ULの定める性能基準に合致したコーティング(レジスト)が使用されていれば汚染度は1でよいと書いてあります。よほど基板にほこりがたまるような環境でない限り、汚染度は1で考えればよいです。



JISとULのどちらを使うかですが、米国に輸出している機器でJISに準じていますと言っても意味を持ちません。各国内の法規制やそれに準じた規制に従って設計すべきだと思います。

私は自己責任で考えればよいので、JISとULの良いとこ取りです。
プリント基板を設計する際の絶縁に必要な距離を
        〜300Vで0.7mm
  300V〜500Vで1.3mm
  500V〜600Vで1.7mm
としています。





参考文献:
  遠坂俊詔、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版社、p.9−16



  

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