真空管アンプ電源
考察
はじめに製作した電源ユニットは、すべての安定化回路を3端子レギュレータで構成していました。今回製作した電源ユニットは、オペアンプを使った実験室でも使用できる?高性能安定化回路です。音質の差はあるのでしょうか。残念ながら、はじめに製作した電源ユニットから部品取りしてしまったので直接の比較はできません。記憶が頼りです。
ヒアリング結果ですが、劇的な変化があるようには感じられませんでした。当然かもしれません。それでも、少し静かになったような低域がより強く押し出されてくるような、そんな印象を受けました。
真空管アンプに安定化電源は必要なのでしょうか。安定化電源のメリットを考えてみます。
① 負荷が変動しても電源電圧が変化しない
=電源の出力インピーダンスが低い
② 電源由来のノイズの影響を受けない
=リップル除去率が高い
③ 商用電源の電圧が変動しても電源電圧が変化しない
④ アンプ回路が必要とする電源電圧を設定できる
①について考えてみます。シミュレーションの結果から、可聴帯域内の電源出力インピーダンスは1Ω以下です。真空管アンプの電源電流変化を200mAとするならば、電源の出力電圧変動は高々0.2Vです。460Vの電源電圧に対してわずか0.04%しか変動しないということになります。
一方、チョークコイルとコンデンサでπ型フィルタを構成した場合、コンデンサ容量が47μFぐらいしかないと20Hzの出力インピーダンスは100Ωを超えます。安定化電源を採用するメリットはかなりあると思います。
②についてです。安定化回路の設計上、電源リップルの下に出力電圧を設定しますから、電源ラインに直接乗ってくる基本リップルは無くなります。整流ダイオードが発生する高調波は厄介な代物ですが、安定化電源ではそれなりに除去可能です。誘導によるものが多少残ります。
しかし、真空管回路はそれほど高SNに仕立てられているわけではありませんから、半導体を使った簡単なリップルフィルタとの差を聞き取るのは難しいと思います。
③についてですが、安定化電源は商用電源の電圧変動に対して有効に機能します。しかし、一般的に真空管アンプは商用電源の”質”に影響されやすいということが言えます。安定化電源を用いても完璧ではありません。高額な出費になりますが、AC安定化電源(商品名はクリーン電源)が一つの解決策になるかもしれません。
④は、既存の電源トランス巻線の束縛から逃れられるという意味で、アンプビルダーにとってありがたい特徴になると思います。
デメリットですが、オーディオアンプの電源ラインにエミッタ接地増幅器(またはエミッタフォロア)が接続されていることになりますから、音質に関し電源回路に使っている半導体の影響を受けるのは確かです。さらに、周波数の高い領域では半導体だけでなく出力コンデンサからも電流供給が行われるため、コンデンサの音質への影響も避けられません。電源もアンプの一部として機能しているので、十分な検討が必要ということになります。
電源の物理的性能がアンプの音質にどう影響するかよく分からないまま、悪いより良いにこしたことはないと様々な施作を打っているのが実態です。ベテランのアンプビルダーが、リップル除去に簡単なπ型フィルタしか使わなかったり、電源に使用するコンデンサを吟味したり、ダイオードの代わりに整流管を使ったりして経験をもとに物理特性より音質を重視した設計をするのは趣味の世界では”あり”と思います。
電源回路の設計ですが、シミュレーションツールによる解析が有効です。無茶をしても何も壊れませんし、実機での再現性が高いことも魅力です。電源トランスや整流回路の解析を行うだけで設計の精度がぐーんと上がること請け合いです。