電圧増幅段の特性を確認する
EL34/6CA7 3結 プッシュプルアンプ
LTC6090の閉ループ特性をもとにカットオフ周波数を決める方法ではうまくいかないことが分かりました。原因は、LTC6090のスルーレート特性が歪を伴う独特なものである事に加え、ゲインを大きくしたためオペアンプに対する負帰還量が減少し歪を改善させることができなかった事にあります。
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LTC6090の閉ループ特性をもとにカットオフ周波数を決める方法ではうまくいかないことが分かりました。原因は、LTC6090のスルーレート特性が歪を伴う独特なものである事に加え、ゲインを大きくしたためオペアンプに対する負帰還量が減少し歪を改善させることができなかった事にあります。
ALHM6702を使って発振を経験したという記事は川名幸男氏が書いておられ、2014年のトランジスタ技術3月号の157ページから158ページにその詳細が記述されています。ALHM6702の反転増幅器2段で30dB30MHzのアンプを製作しているのですが、私と同じようにDip変換基板を用いて盛大に発振したとあります。氏は実装をやり直して解決したようです。
私はどうしたかですが、たまたま手持ち部品の中にAD811というALHM6702より帯域の狭い電流帰還型オペアンプを見つけ使ってみることにしました。帯域幅はALHM6702の720MHz(ゲイン2倍)に対し120MHz(ゲイン2倍)で、パッケージは8ピンDipです。
安定化電源の設計では、出力コンデンサの直流抵抗が系の安定性にとって重要なファクターであることが分かりました。直流抵抗は技術雑誌に載っている値を参考にすれば事足りることがほとんですが、自分の選択した部品の特性がどうなっているのか分からないのは少し不安になります。また、”部品の特性と音質との関係”がどうなのかということも気になります。
一般的に、受動部品の特性を測定するにはインピーダンス測定器を用います。インピーダンスとは、抵抗とキャパシタンス、インダクタンスの各成分が複素平面上で形成するベクトル量です。従って、インピーダンスは周波数によって変化する値となります。
電気系の学生はブリッジでインピーダンス測定する実験を必ずやるはずです。でも、今の学生は手を動かし感覚を研ぎ澄ませて電気と向き合うなんてことはやらないのかもしれませんね。
前置きが長くなりましたが、アナログディスカバリーを用いたインピーダンス測定器を製作しましたので紹介したいと思います。
アナログディスカバリーと組み合わせて行うインピーダンス測定はI-V法と呼ばれているものです。原理は下記の通りです。
(Ⅲ)電圧増幅段の設計
電圧増幅段のカットオフ周波数は20KHz/−3dBを目指します。
下図はLME49810のゲイン/位相の周波数特性です。これまではゲイン20dB(10倍)で使用していました。帯域は2MHzとなります(緑色の線)。これをゲイン60dB(1000倍)まで上げれば、帯域は20KHzまで落ちてくるはずです(青色の線)。
オペアンプのゲイン/位相特性をうまく利用すれば、外部にコンデンサを付加せずにアンプの周波数帯域を変えることができます。
オペアンプのゲイン/位相特性がこのようになる仕組みについて少し説明したいと思います。実は、オペアンプの内部ではコンデンサを使った位相補償によってポールの位置を調整するということが行われています。下図はオペアンプ内部を説明した図です。
説明に使っているのは、初段が差動増幅回路とそのゲインを上げるためのカレントミラー回路、次段がエミッタ接地回路という基本形です。この中で、エミッタ接地の出力から差動増幅の出力に接続されたコンデンサがポール位置の調整を行っています。
LTSpiceを使ってシミュレーションしてみましょう。位相補償用のコンデンサを変化させてパラメトリック解析を行います。
コンデンサの値を10pF、100pF、1000pFと一桁ずつステップさせると、周波数特性も一桁ずつ変化していくことが見て取れます。
一般的には、第一ポールの周波数を10Hz程度まで下げ第二ポールを0dBラインの下側に抑え込みます。この結果、ボルテージフォロアーでも発振しない安定なオペアンプとなります。「オペアンプの音はよくない」とおっしゃる方の根拠は、このような回路構成を取っているからという所にあるようです。
1970年代、DCアンプが出始めの頃に発表された製作記事やメーカー製品はオペアンプの内部回路をコピーしたものがほとんどだったと思います。ただ、オペアンプのような汎用性は必要ないですから、各ステージのゲインや帯域を最適化して位相補償が最小になるような工夫をされていたと記憶しています。
次は電圧増幅段を1段で済ませるアイデアです。それは、インスツルメンテーションアンプ(Instrumentation Amplifier)の2段目の差動増幅回路を削除するというものです。下図のようにシンプルな構成になります。
U1の出力とU2の出力とがそれぞれ出力管のグリッドにつながります。本来であれば、U1とU2の出力は位相が逆でゲインルが同じであることを求められますが、上記回路ではそれが完全ではありません。下図にU1とU2のゲインを計算した式を示します。
U1とU2のゲインの差は、第二項のVi1とVi2の違いだけです。今回は電圧増幅段の帯域を狭くするためにゲインを上げる、すなわちR2/R1(=R3/R1)を大きくする予定ですからVi1とVi2の差は相対的に小さくなると考えられます。
ゲインを1000倍、NFなしで計算してみます。
ゲイン1000倍にするにはR2/R1=1000とします。NFBなしで入力Vi1=1mV、Vi2=0mVの時、出力Vo1=1001mV、Vo2=-1000mVとなり両者の出力差は1mV、すなわち0.1%にすぎません。これは一般的に使われる抵抗の誤差1%の十分の一です。全く問題ないと考えられます。因みに、NFBありの時も同じ誤差になります。
電力増幅段がA級増幅であれば、上記のVi1とVi2の差は出力トランスで打ち消されます。今回のアンプはB級に近いAB級なので打ち消しはそれほど期待できません。
参考文献:
岡村廸夫、定本 OPアンプ回路の設計、CQ出版、p.85−88
黒田徹、実験で学ぶトランジスタ・アンプの設計、CQ出版、p.83−87
電圧増幅段の電源ですが、AD797は±15V、LME49810は±75Vとします。
KT88の最大出力を見積もった際、プレート電流を60mAに設定した時のバイアス電圧は約−54Vと読み取れました。電圧増幅段で108Vppスイングできれば最大出力となります。LME49810を電源電圧±75Vで使用した時の最大出力は140Vppとなりますから、KT88のバイアスを調整するマージンまで考えても十分な値です。
今回は電力増幅段に-55Vのバイアス電圧を加えることにします。電圧増幅段のバーチャルグランドを+1Vシフトすればデータシートから読み取った−54Vになります。バーチャルグランドを設定する回路は下記の通りです。この回路は、KT88毎に必要です。調整範囲は0〜+5.3Vです。
実験基板には上記バイアス調整回路も組み込みました。しかし、調整した電圧がLME49810の出力に反映されません。
原因を探ったところ、AD797の入力に1MHz前後の微小なノイズが見られ、AD797の出力にはオフセット電圧より大きなDC電圧が発生していました。AD797の入力には接続用のケーブルが接続されていたのですが、ATTに接続されておらず解放状態でした。さらに、シールド線ではなくバラ線になっていました。これをBNC to BNCでATTと接続すると正常な値に戻りました。また、AD797をFET入力のオペアンプと交換しても現象は消えます。
ケーブルに乗ったノイズがAD797の入力で検波され、さらにインスツルメンテーションアンプでゲイン倍されて出力に現れたのではないか、と想像しています。ノイズは入力ケーブルがアンテナとなって受信したAM放送かもしれません。諸先輩方の製作記事を見ると、高周波ノイズをカットする為にフィルタ回路を設けている例があります(参考文献参照)。
さらに、電圧増幅段はDCアンプとなっている為、入力に加わるDC成分はKT88のバイアス電流を変化させ、最悪の場合破壊に至ります。
これらの対策として、入力段にローパスフィルタとハイパスフィルタを設けることにしました。回路は下記の通りです。カットオフ周波数は、154KHzと0.33Hzとなります。
使用するオペアンプは、入力段がFETになっている高入力インピーダンスタイプを使用します。ハイパスフィルタに使用しているコンデンサは0.22μF以上であれば問題ないと思います。官能評価?で何にするか決めるつもりです。
参考文献:
黒川達夫、デジタル時代の真空管アンプ-6550App UL接続55Wパワーアンプ、誠文堂新光社、1989、p.207
今日はTIのLME49810の特性を実験で見ていきましょう。実験回路は下記の通りです。
初段のAD797と合わせ実験しました。アリババのヒートシンクは間に合いませんでした。
手持ちの汎用電源装置は±58Vなので、これで実験しています。
まずスルーレートですが、オシロスコープの観測結果を下記に示します。100V立ち上がるのに1.8μsかかっていますから、スルーレートは100/1.8=55.6V/μsと計算されます。データシートに近い値が得られています。
出力電圧1Vrmsにした時の周波数特性を下記に示します。−3dBとなるカットオフ周波数は2.5MHzと読み取れます。実験回路のゲインは20dBですから、GB積は25MHzと計算されます。これもデータシートに近い値となっています。
出力電圧を10Vrmsにすると下記の特性になります。スルーレートの影響を受けてカットオフ周波数が下がっています。
KT88をドライブするのはTIのLME49810です。
この石はプッシュプルのエミッターフォロアーが出力段になっていて、コンプリメンタリーのパワートランジスタを接続することでパワーアンプが完成します。半導体パワーアンプに使用すると下記の回路図になります。私はこのTrアンプを製作してここ数年使ってきましたが、高性能で安定したアンプが容易に製作できるのでオススメの石です。音質も満足できるものでしたが、少し暗めに感じるかもしれません。
この石はNDN0015Aという15ピンのパッケージで、ピンピッチが0.965mmという特殊なものです。発熱もそこそこありますからヒートシンクは必須です。
以前半導体アンプを製作した時には、ピンピッチについてはプリント基板を設計してなんとかしましたが、ヒートシンクはTO220用の小型のものを追加工して使いました。
今回の製作でもプリント基板を使用しますからピンピッチはなんとかなります。ヒートシンクをどうしようかと思いネットで検索していたところ、AliExpressで専用のヒートシンクを見つけました。中国恐るべし、です。
LME49810の主な仕様を下記に示します。真空管電力段のドライブにピッタリだと思いませんか?欲を言えば、スルーレートが100以上あればな〜と思います。
参考文献:
栗原信義、AB級30WX2パワーアンプ、誠文堂新光社「無線と実験」、2008年5月号、p.146−158
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