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カテゴリー「真空管」の4件の記事

2016/04/30

KT88プッシュプルアンプ 電圧増幅段の設計(9)

 ここまで半導体を使った電圧増幅段の設計を行ってきましたが、真空管で構成された電圧増幅段の特性はどの様なものか、実験してみました。取り上げたのは黒川達夫氏が設計した6CA7プッシュプルアンプの電圧増幅段です。実験した回路は下記の通りです。



Tube_01


 実験の様子です。




Tube02




 下記は出力1Vrmsにおける周波数特性です。ゲインは43.2dB、カットオフ周波数は164KHzでした。回路の出力はアナログディスカバリーだけを接続しました。オシロやデジボルを一緒につなぐと、アンプの出力インピーダンスが高い為測定器の入力容量で特性が悪くなります。



Tube03




 下記は10KHzにおけるステップ応答波形です。周波数特性の影響で角が丸くなっています。



Tube04





 下記は上記のステップ応答波形を拡大したものです。−50Vから0Vまでの立ち上がりに注目してスルーレートを読み取ると50V/μsでした。LME49810とほぼ同等の性能ということになります。




Tube05





参考文献:
  黒川達夫、デジタル時代の真空管アンプ-6CA7pp 32Wパワーアンプ、誠文堂新光社、1989、p.212-229


2016/03/08

KT88プッシュプルアンプ 構想と仕様

 中学生の頃の参考書は専ら「初歩のラジオ」でした。時期と内容ははっきりしないのですが、中学生が森川忠勇氏の指導を受けてKT88プッッシュプルアンプを製作するという記事が掲載されました。とても羨ましかったのを覚えています。いつの日にか私もKT88アンプを作ってみたいと思いました。


 社会人になってから知人にそのことを話したところ、その知人はアンプ製作とは無縁だったにもかかわらずGECブランドのKT88を持っていて、使わないからとタダでゆずってくれました。そこまでは良かったのですが、ゲッターがほとんど飛んでいて使い物になりませんでした。もちろん使えなかったとは言えませんでした。その知人は真空管の知識がない方だったので仕方ありませんね。


Kt88_08



 初めてKT88アンプを製作したのは20年ほど前です。中国からGolden Dragon KT88 Classicという本物そっくりの球が出たことを知り、早速購入し出力が30W程度のULプッシュプルアンプを製作しました。当時使用していたアキュフェーズのP-266と聴き比べたのですが、良い印象が無かった記憶があります。私の腕が悪かったのだと思います。


Kt88_07



 KT88の歴史と現行ロシア管について、2015年のラジオ技術1月号と2月号に都来往人氏が詳述されています。読み物として大変面白いのですが、技術史資料としても一流の内容です。


Kt88_05



 KT88は6550をベースに開発され、1956年に発表されました。今年で60年となります。開発と製造は、MarconiとOsramの合弁会社M-O.Valveです。販売ブランドはGEC、Genalex、Gold-Lion等々、色々あります。1988年まで製造が行われていたということなので、高価ではありますが未だ時々市場に出てくるようです。


 現行品ですが、スロバキア(JJ)製とロシア(Reflector工場)製の2つに絞られます。現行のGold-Lion、Mullard、Electro-Harmonix、Sovtek等々のブランドは全てReflector工場で作られているようです。Svetlana工場製は現在入手できません。




 KT88はプレート最大電圧が800V、プレート最大損失40Wの大型管です。電源電圧560VのUL接続で100Wが得られるとデータシートに記載されています。今回そこまで頑張ることはせず、製作例の多い出力50W〜60Wを目標に設計しようと思います。

今回製作するアンプの目標仕様です。
   最大出力      : 60W
   歪率        : 1%以下(50W出力時)
   増幅度       : 14dB(5倍)/4Ω
   周波数特性     : 10〜100KHz(−3dB)
   ダンピングファクタ : 15以上
   残留雑音      : 0.2mV以下





参考文献:
  都来往人、ロシア製Mullard KT-88復刻版(前編)、アイエー出版「ラジオ技術」、2015年1月号、p.45−62
  都来往人、ロシア製Mullard KT-88復刻版(後編)、アイエー出版「ラジオ技術」、2015年2月号、p.37−56
  誠文堂新光社「世界の真空管カタログ」



2015/10/20

EL84ppアンプ 試作実験(3)

 試作実験の結果とFB事項について報告します。EL84はJJ製を使用しました。負荷は4Ωです。

(Ⅰ)バイアス電流の設定とスクリーン損失
 設計時点で参考にしたデータシートの動作例は、B1級でバイアス電流が8.3mA(プレート電流:7.5mA、スクリーン電流:0.8mA)になっています。B級動作と言っていますので、このままだとリニアリティの悪い裸特性になると予想されます。それを証明しようという訳ではないのですが、下記グラフはバイアス電流をパラメータとしアンプ出力を1Vrmsから7Vrmsまで振った時にゲインがどのように変化するか測定したものです。


Photo


 このグラフから、バイアス電流を増やしていくと直線性が大きく改善されることが分かります。B級動作からAB級動作に移行していると考えられます。しかし、バイアス電流を増やすとスクリーン損失が大きくなり、EL84の最大損失2Wを越える心配が出てきます。おそらく、5極管接続では動作例のバイアス電流値8.3mAが限界なのだと思われます。しかしながら、今回はUL接続ということでスクリーン電圧はプレート電圧の43%しかかかりません。バイアス電流をもう少し増やしても良いでしょう。
 ということで、バイアス電流を16mA(プレート電流:14.5mA、スクリーン電流:1.5mA)にした時のスクリーン電流と損失及びプレート電流と損失を測定し、定格オーバーになっていないか確認してみました。


Photo_2


 スクリーン電流とスクリーン損失は、出力の増加に伴い相似形で増加していきます。アンプ出力14Wでスクリーン損失は最大定格2Wに達し、それ以上の出力で定格オーバーになります。しかし、ここから先の出力領域は連続的ではなく瞬時的に入り込むだけと考えるならば、せん頭最大定格4Wが適用されてもよい領域であり問題ないと判断しました。ということで、バイアス電流は16mAに設定することとします。

 一方、プレート損失はアンプ出力5W付近にピークがあります。全体を通して4〜6Wの間に収まっています。プレート電流はアンプ出力に比例して増加していますから、その差分がアンプ出力(+出力トランスロス)として取り出されます。黒田達夫氏の著書に、プレート損失は「最大出力の3割前後の出力で最大となり10%程度は増えます」と書かれており、今回の測定はそれをなぞる結果になりました。


参考文献:
  黒川達夫、現代真空管アンプ25選、誠文堂新光社、1998、p.49



2015/09/02

EL84ppアンプ 構想と仕様

 ブログで発表する第1作目です。
張り切って記事を書いていきたいと思います。

 アンプ製作は、まず仕様を決めてから出力段に使用する真空管を選ぶ、というのが順序と思いますが今回はEL84(6BQ5)を使います。理由は単純で、手持ちストックがあったからです。いつか使おうと思って秋葉原や通販で真空管を購入しそのままになっている方、多いのではないでしょうか。

 EL84はオランダのフィリップス社が開発したMT型5極管です。EL84はヨーロッパの真空管名称で、”E”はヒータ電圧が6.3Vであることを、”L”は電力増幅用の4極管、ビーム4極管、5極管であることを示しています。日本でも、同一特性管を松下、東芝、NECなどが6BQ5として販売しました。現在でも、JJ ELECTRONICやSOVTEK,ELECTRO HARMONIXで生産販売されており、ペアチューブで¥3k前後と比較的安価に入手可能です。松下や東芝、NECの物も、探せばペアチューブ¥10k前後で入手できるようです。

El84_03

 EL84の特徴は、何と言っても感度が高く小振幅でドライブできることです。そのため、電圧増幅段の設計自由度が高く、所謂ハイブリッド型のアンプも容易に製作可能となります。一方で、プレート電圧の最大値が300Vでプレート損失12Wという制約がありますから、どのような動作をさせるか慎重にならざるを得ません。また、スクリーンの許容損失が小さいことも気にかけての設計となります。

今回のアンプはプッシュプル動作の出力段のみを真空管にして他は全て半導体を使うという構成で進めることにします。動作ポイントや各部の損失についても注意深く確認したいと考えています。


今回製作するアンプの目標仕様です。
   最大出力      : 15W
   歪率         : 1%以下(10W出力時)
   増幅度        : 20dB(10倍)
   周波数特性     : 10〜100KHz(−3dB)
   ダンピングファクタ : 5以上
   残留雑音      : 0.1mV以下
ボサノバやジャズボーカル、70年代の洋楽が楽しく聴けるような、そんなアンプを目指します。


参考文献:
  誠文堂新光社「世界の真空管カタログ」