KT88プッシュプルアンプの電源を再製作しました。
B電源は+460V、
電圧増幅段用は±78Vと±15Vで、全てオペアンプを用いた回路です。
尚、これらの電源は遠坂俊昭氏の「電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計」を参考にして設計したものです。
下図は安定化電源回路の原理図です。
比較増幅部は基準電圧Vrefと出力電圧Voutを比較/増幅し、エミッタフォロア部を制御します。
下図は、実際に使用する回路をもとにしてより具体的に説明した図です。
比較増幅部はオペアンプとR1、R2、C3で構成されています。これは図の左下で表したように積分回路として動作します。
エミッタフォロア部はTR1とTR2がダーリントン接続され、過電流保護回路を介して出力コンデンサC1に接続されています。
過電流保護回路は、負荷電流が大きくなりR3両端の電圧が0.6Vを越えるとTR3がオンし、TR1とTR2をカットオフします。
これらは図の右下で表したように抵抗(エミッタフォロアの出力抵抗Ro+過電流検出抵抗R3+コンデンサの等価直列抵抗Rc1)とコンデンサC1の直列回路として動作します。
下図は比較増幅部のゲイン特性とエミッタフォロア部のゲイン特性を図示したものです。
比較増幅部のゲインは、−20dB/decで減衰します。
エミッタフォロア部は周波数fAとfBの間のみ−20dB/decで減衰し他の領域はフラットです。
比較増幅部のゲインとエミッタフォロア部のゲインを足し合わせたものがクローズループゲインとなり、周波数fAとfBの間は−40dB/decで減衰し、fB以降は−20dB/decで減衰します。
図には書きませんでしたが、エミッタフォロア部の位相はfBまで遅れていきますが、それより上の周波数で戻って(進んで)きます。従って、比較増幅部とエミッタフォロア部を足し合わせたクローズループゲインが1になる周波数fCは、位相余裕を大きく取るためにfBより上に持ってくるのがベターです。参考文献には、fCはfBの3倍以上と書かれています。
下図は今回製作した±78V電源の回路図になります。設計出力電流は100mAとしました。
ダーリントン接続したエミッタフォロアの出力抵抗Roは0.33Ωと計算されました。
エミッタフォロアの出力抵抗算出式は後の方に載せました。
過電流検出抵抗R3は2.2Ωです。
出力コンデンサには日本ケミコンのKMGシリーズを使いました。100V470μFの等価直列抵抗Rc1を0.2Ωとしています。
これらの条件から、fA=124Hz、fB=1690Hzが求まります。
fCは参考文献に従い30KHzとします。
この後、比較増幅部の抵抗とコンデンサの値を求めていきます。
計算方法は参考文献に詳しく解説されていますので参考にしてください。
上記回路では、プラス側C1=8.6pF、マイナス側C2=12.4pFと計算されました。
両者とも10pFを使用することとします。
ここまで説明した以外のところですが、
定電流ダイオードはダーリントン接続した1段目トランジスタのベース電流を供給しています。抵抗ではなく定電流ダイオードを使っているのは、電源入力に含まれるリップル分の影響をできるだけ小さくするためですが、ダーリントン接続しているのであまり意味がないかもしれません。
±78V電源出力短絡時はオペアンプから過電流保護回路のトランジスタを通って出力方向に電流が流れます。オペアンプ出力も短絡されたのと等価になります。オペアンプの電源は外部から取っているため、出力短絡時には過大な電流が流れる危険があります。オペアンプを保護する目的で出力に620Ωを入れています。
620Ωの後にツェナーダイオードが入っていますが、これはオペアンプ出力電圧をかさ上げするために必要になります。
マイナス電源はプラス電源の出力を基準に動作するトラッキング電源としています。
下図は、エミッタフォロア出力抵抗の算出方法を示したものです。
参考文献:
遠坂俊昭、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版、2013、p.86−108、p.130−136
本多平八郎、作りながら学ぶエレクトロニクス測定器、CQ出版社、2001、p.52−90