20W/4Ω D級アンプ パンピング現象
D級アンプの出力段と電源の出力コンデンサが描かれています。図の左側は、ハーフブリッジ回路の上側がオンしLCフィルタと負荷に電流が流れている状態です。電流の経路は赤で示してあります。図の右側は、ハーフブリッジ回路の上側がオフし下側がオンした状態に移行した電流経路を示しています。電流は電源のマナス側に逆流しコンデンサをチャージします。この結果、コンデンサの両端電位は上昇することになります。
上図で説明した内容をシミュレーションしてみました。電源と出力段の間に電流計V7とV8を入れています。LTSpiceでは電圧源の電圧をセロと指定し電流計として使います。
下図がシミュレーション結果です。赤の波形I(V7)は原理説明図の左側の電流ルートを、青の波形I(V8)は説明図の右側の電流ルートを表しています。
実際の回路でどのような電流が流れているのか確認してみます。オシロスコープで波形を観測できるように電流計を作成しました。下図に回路図を示します。
ユニバーサル基板に組み込みました。
電流検出に使用したICはACS723LLCTR-05AB-Tで400mV/Aの感度を持つものです。測定するには回路を切らなければなりませんが、挿入抵抗は0.65mΩと無視できるほど小さな値です。しかし、比較的大きな電流を測定するのに向いているようで小さな電流を見るのは苦手です。観測する波形の周波数成分以外はカットするようフィルタが必要です。
電流を観測する箇所は下図に示す3箇所です。
下の写真は観測波形になります。信号周波数は100Hz、出力電力は10W/4Ωです。
A1の波形(0.5A/div)
A2の波形(0.5A/div)
A3の波形(0.5A/div)
A1の電流波形にはA2に見られないマイナス方向の成分があります。これがパンピングによる逆方向電流です。原理を理解するためシミュレーションでは現象をミクロ的に見てきましたが、ここでは実際の回路を使って現象をマクロ的に見ることができました。
ここまではSE(シングエンド)におけるパンピング現象を見てきました。下図はBTL(バイポーラ)ではどうなるかを説明したものになります。
図の左上は、ブリッジ回路の左上側と右下側がオンしLCフィルタと負荷に電流が流れている状態です。この状態から矢印の先の3つの状態に変化します。図の左下はブリッジ回路の左上側と右上側がオンし、その中で電流がループし電源に逆流することはありません。図の右上はブリッジ回路の左下側と右下側がオンし、その中で電流がループし電源に逆流することはありません。図の右下はブリッジ回路の左下側と右上側がオンし、電流は電源に逆流しています。しかし、この状態のときマクロ的には電源から電力が供給されており、その値は逆流電力より大きいため間に入るコンデンサによって相殺されコンデンサの両端電位が上昇することはありません。
回路図のA1の波形です。マイナス方向の電流は観測されませんでした。120Hzで電流が脈動しますが、これは電源の整流コンデンサ18000μFから出力段のパスコン1000μFへ流れる電流が重畳されているからです。
パンピング現象は信号周波数が低いほど、負荷が小さいほど顕著に現れます。電源側から見ると厄介な現象ですが、BTL接続で負荷をバイポーラ駆動すれば解決できる問題であることが理解できました。
参考文献:
本田潤[編著]、D級/ディジタル・アンプの設計と製作、CQ出版社 、p.155−173(本田潤執筆)
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