真空管アンプ電源
+460V電源 設計とシミュレーション4
(3)起動停止回路
+460V安定化電源の起動/停止方法について説明します。

①比較増幅機の基準電圧がプラス電位になるように設定します。上図では、抵抗とダイオードを介して2V以上の電圧を印加しています。
②比較増幅機の出力がプラス側に飽和します。
③インバーテッドダーリントン接続されているPチャネルトランジスタが逆バイアスとなりカットオフします。
④1KΩに電流が流れないためゲート/ソース間がショートされたのと同じになり、FETはカットオフします。
動作を確認するためにシミュレーションしました。下図が回路になります。
比較増幅部には、停止時0V、起動時15Vを印加しました。
まず、停止動作を確認しました(下図)。
ドレイン電流(赤)は瞬時にゼロになりますが、出力電圧(青)は出力コンデンサの電荷が4.6KΩでディスチャージされるのでゆっくりと低下していきます。
次に起動を確認します(下図)。
0.5秒後に起動する設定です。定電流回路が動作して200mA弱の電流で出力コンデンサをチャージアップしていきます。出力電圧はほぼ直線的に上昇していき、0.75秒後に460Vに達します。この時点で定電流制御が終わり定電圧制御に移行します。実際の負荷は抵抗ではなく真空管なので、低い電圧での電流が多くなり460Vに達するまでの時間はもう少し長くなると予想されます。
下図は起動の瞬間を拡大したものです。ここから色々な事が分かりました。
一つ目ですが、FETがカットオフしている間、Pチャネルトランジスタのベースエミッタ間に-15Vの逆バイアスがかかっている事に気づきました。使用するSTN9360の逆バイアスの許容値は−7Vであり、−15Vは定格オーバーになります。
一つ目の問題を解決するために、トランジスタのベースエミッタ間にツェナーダイオードを挿入しました。
二つ目の問題はその副作用です。カットオフ時はオペアンプ出力がプラス側に飽和していますが、ツェナーダイオードを挿入したために電流が流れるルートができ、その電流値は計算上(13V−6V)÷100Ω=70mAに達します。これはOIPA2134の定格35mAをオーバーしています。
対策として、100Ωを470Ωに変更しました。
三つ目ですが、定電流動作が安定するまでの約20μsの間FETに最大7.8Aの電流が流れます。この原因を解説したのが下図になります。
計算値とシミュレーション結果、ほぼ同一の値となりました。
ドレインとソース間には500V近くの電圧がかかっていますから、素子のASO(Area of Safe Operation:安全動作領域)が心配です。下図はロームのSiC MOS FET2品種のASOグラフに500Vの線を引き、100μSと交わる点の電流値を読んだものです。
SCT2450を使う場合は1Aまでピーク値を下げなくてはいけないことが分かります。SCT2160を使ったとしても5A以内に抑える必要があります。
対策として、バイアス電圧を−15Vから−5Vに変更し、FETはSCT2160を使用することとしました。
以上三つの問題にどう対処したかを下図にまとめました。
参考文献:
遠坂俊昭、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版、2013、p.158−173
本多平八郎、作りながら学ぶエレクトロニクス測定器、CQ出版社、2001、p.52−90
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