コンテンツ

« 2016年12月 | トップページ | 2017年2月 »

2017年1月

2017/01/27

電源入門
電源トランス 〜シミュレーションモデルの作成〜

LTSpice等のシミュレーションソフトを使うと、整流回路の動作が組み立て前に確認できてとても便利です。しかし、トランスの等価回路をどう考えればよいか、パラメータの抽出(測定)はどうしたらよいのか等敷居が高いと感じるのも事実です。でも、オーディオで使う電源トランスであればそれほど難しくないので紹介したいと思います。



Photo



上図はトランスの等価回路です。

漏れインダクタンスL1とL2はコアに巻かれた巻線のうち電力伝達に貢献しない部分です。巻き方によって大小差がありますが、どんなトランスにも存在する役に立たない無駄飯食いの部分です。励磁インダクタンスL3はコアに巻かれた巻線のうち電力伝達を担う部分です。


R1とR2は銅損と呼ばれます。巻線の直流抵抗分です。


R3は鉄損と呼ばれます。巻線に電流が流れるとコア材に渦電流が流れ、これにより熱が発生します(電磁調理器の原理です)。さらに、交流電流が流れると内部の磁極が反転を繰り返し、これによりエネルギー損失が生じます。これら、銅損以外の損失を鉄損と呼びます。トランスの仕様で鉄損がどれだけかを表す場合、抵抗値(Ω)ではなく損失(W)での表示となります。



LTSpiceにはトランスモデルは用意されていませんから、等価回路をそのまま入力することはできません。LTSpiceでトランスはどう考えればよいのか、等価回路中の理想トランス、L1、L2、L3、(L4)について説明したのが下図になります



Ltspice



前記等価回路では励磁インダクタンスを一次側だけに設けていましたが、上図左では二次側にも置いています。

LTSpiceでは、結合係数kと巻数比nで関係づけられた、それぞれLaとLbのインダクタンスを持つ二つの巻線で考えます。Laは一次側漏れインダクタンスL1と一次側励磁インダクタンスL3の和です。Lbは二次側漏れインダクタンスL2と二次側励磁インダクタンスL4の和です。漏れインダクタンスと励磁インダクタンスの割合をkとしています。二つの巻線の巻数比はnで与えられます。

一次側インダクタンスLaと巻数比n、結合係数kを与えれば他の定数はすべて決まります。実際、LTSpiceではそのような仕様になっています。




商用電源につなげる電源トランスでは、扱う周波数が50Hzもしくは60Hzと低いので漏れインダクタンスの影響はほとんど受けません。漏れインダクタンスL1=0、L2=0とするならば、上図からK=1が導き出されます。
周波数が低いということで浮遊容量の影響も受けませんから、C1=0、C2=0で考えれば良いということなります。
損失という観点で見ると鉄損の影響は大きいのですが、我々がトランスの磁気特性を得ることは難しく、仮に得られたとしてもLTSpiceにはこれを組み込む機能が標準で用意されていません。ということで、無視(R3=∞)して考えます。
以上の考察から、シミュレーションに必要な定数は下記の3つということになります。

  ① 一次、二次直流抵抗
  ② 巻数比
  ③ 一次側インダクタンス




タンゴのトランスME−275を実際に測定してみます。



Me275
ME−275(左)とインダクタンス測定回路(右)



①一次、二次直流抵抗
すべての巻線を開放状態にします(測定器以外は何も接続しない)。テスターもしくはマルチメータで測定できます。一次巻線やヒータ巻線は値が小さいので、4端子法で測定するべきかと思います。

   一次側直流抵抗 : 0.967Ω
   二次側直流抵抗 : 30.7Ω(外側)
                    29.4Ω(内側)

②巻数比
すべての巻線を開放状態にします(測定器以外は何も接続しない)。一次側に発振器を接続します。周波数は50Hz〜数百HZ、電圧は1Vrms〜5Vrmsぐらいです。テスターもしくはマルチメータで一次側と二次側の電圧値を測定します。一次側の電圧をV1、二次側の電圧をV2とすると巻数比nは、n=V2/V1で計算できます。

   巻き数比    : 3.4

③一次側インダクタンス

Photo_2
インダクタンス測定回路図



測定は平衡ブリッジ法で行っています。オペアンプを使わずに抵抗だけでも測定できます。電圧はマルチメータで測定しました。
Analog Discoveryでの測定を試みましたが、トランスのインダクタンスが大きいため低い周波数で波形が安定するのに時間がかかり正確な値が得られないようです。



Me275_2
ME−275一次側インピーダンス測定結果



測定結果ですが、右上がりで値が増加していき、3KHzがピークでその後値が下がっていきます。

3KHzより下では鉄損の影響が大きいようです。等価回路で描かれているような励磁インダクタンスと鉄損の並列回路というわけではなく、非線形性を持った複雑な回路のように見受けられます。

3KHzのピークはインダクタンスと浮遊容量の共振点です。トランスから「キーン」という音が聞こえてきました。3KHzより上の値は浮遊容量が支配的です。

60Hzのインピーダンスは414Ωでした。この値が”純”インダクタンスだとするならば、414÷(2πf)=1.1Hと計算されます。

250Hzのインピーダンスは775Ωで、インダクタンスは0.5Hと計算されます。鉄損の影響が少なくなる1KHzのインピーダンスは1560Ωで、インダクタンスは0.25Hと計算されます。どの値を使えばよいのか分からなくなりますが、整流回路のシミュレーションを行う限り、どの値を使っても差はありません。



では実際にLTSpiceでトランスモデルを作成してみましょう。


Photo_3


回路図を開き、まずインダクタを配置します。MAC版ではファンクションキーF2を押すと部品選択画面になります。ここでは極性付きの”ind2”を使います。


Photo_4


次に巻線の直流抵抗を配置します。


Photo_5


素子と素子をつなげていきます。MAC版ではファンクションキーF3を押すと配線モードになります。次に各素子の値を入れていきます。二次側のインダクタンスは、一次側インダクタンス X 巻数比 X 巻数比 で計算できます。1.1 X 3.4 X 3.4 = 12.7 です。


Photo_6


次がこの作業の重要ポイントです。結合係数kをSpice Directiveで設定します。Windows版であれば、ツールバー一番右にある”.op”アイコンをクリックします。MAC版であれば、キーボードの”s”を押します。そうするとEdit Text on the Schematic画面が開きますから、「K1 L1 L2 L3 1」と入力します。






参考文献:
  遠坂俊詔、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版社、p.61−69

2017/01/20

電源入門
安全性

(1) 感電防止

私がかって経験した痛い思い出を二つほど紹介したいと思います。

・会社の仕事場でAC100Vの両端をドライバーでショートさせてしまい、
 ブレーカが飛んで仕事場のフロア全体が停電したことがあります。
 ショートした現場は真っ黒焦げになっていました。

・811を使ったアンプの実験中でした。
 間違って、600V電源のFETリップルフィルタに触ってしまいました。
 一瞬何が起こったかわからず、しばらくしてから感電したと気がつきました。
 手には白い傷ができ、痛みがしばらく消えませんでした。

商用電源の一次側を触って電流が心臓を通ると生死に関わる大事故になります。また、二次側であっても感電したショックで倒れて怪我をしたり、払いのけようとして周囲の物を壊してしまうといった事故につながります。真空管は数百Vの電圧を扱うので、感電等の事故が発生しないように細心の注意を払うべきであると思います。




(2) 絶縁距離

絶縁に必要な距離はどのくらいあればよいのかを安全規格から読み解いていきます。


JIS C 1010-1(測定、制御及び研究室用電気機器の安全性)を参考にします。この規格は国際電気標準会議IECのIEC61010-1とほぼ同一の内容です。

まず、「過電圧カテゴリ(Overvoltage Category)」と「汚染度(Pollution Degree)」という2つの言葉を知るところから始まります。


◯過電圧カテゴリ
機器(回路)が置かれる場所をⅠからⅣで区分しています。
(正確に言うと、過渡的な過電圧の大きさによって場所を区分しています)

CAT.Ⅰ: コンセントに接続した機器の絶縁された2次側
CAT.Ⅱ: コンセントに接続した機器の1次側
CAT.Ⅲ: 分電盤からコンセントまで
CAT.Ⅳ: 分電盤から外(分電盤を含む)

◯汚染度
言葉通りで、機器が置かれている周囲の環境を1から4で区分しています。

汚染度1: クリーンルームまたは密閉された容器内
汚染度2: 家庭やオフイスの一般環境
汚染度3: 工場内の環境
汚染度4: 屋外環境



真空管アンプの二次側回路は、過電圧カテゴリⅠ&汚染度2で考えればよいことになります。

  300V以下 空間距離    0.5mm
  600V以下 空間距離    1.5mm

真空管アンプの二次側回路をプリント基板で構成する場合、過電圧カテゴリⅠ&汚染度1  または汚染度2のコーティング(レジスト)ありで考えればよいことになります。両者の値は同じです。

  300V以下 プリント基板上 0.7mm
  600V以下 プリント基板上 1.7mm



米国の安全規格といえばULです。UL840(電気設備のクリアランスと沿面距離)が一般に知られています。プリント基板上における絶縁に必要な距離は、14ページ ”表6.2 プリント配線板における許容可能な最小沿面距離” から読み取れます。

  320V以下 汚染度1    0.75mm  
              汚染度2    1.6 mm  
  500V以下 汚染度1    1.3 mm  
              汚染度2    2.5 mm  

ULの定める性能基準に合致したコーティング(レジスト)が使用されていれば汚染度は1でよいと書いてあります。よほど基板にほこりがたまるような環境でない限り、汚染度は1で考えればよいです。



JISとULのどちらを使うかですが、米国に輸出している機器でJISに準じていますと言っても意味を持ちません。各国内の法規制やそれに準じた規制に従って設計すべきだと思います。

私は自己責任で考えればよいので、JISとULの良いとこ取りです。
プリント基板を設計する際の絶縁に必要な距離を
        〜300Vで0.7mm
  300V〜500Vで1.3mm
  500V〜600Vで1.7mm
としています。





参考文献:
  遠坂俊詔、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版社、p.9−16



  

2017/01/13

電源入門
イントロダクション

真空管アンプには下記の電源が必要になります。


Photo

  A電源:ヒータを温めるために使われる電源です
  B電源:プレートやスクリーンに電力を供給する電源です
  C電源:固定バイアスを与えるための電源です

全てを真空管で構成する場合、B電源をデカップリングして電圧増幅段に電力供給します。電圧増幅段が半導体で構成される時は、A〜C電源の他に別途電源を用意する必要があります。



一般的な真空管アンプの整流回路を見ると、使われているコンデンサ容量が小さい事に気づきます。このままではリップルが大きくなりますから、多くの作例でチョークコイルが使われています。また、半導体の信頼性は低いので整流素子には整流管を使うべきだという記事もよく見かけました(過去形です)。



私の個人的な分析ですが、前記のような電源構成になったのは真空管が全盛だった当時の電子部品の性能と品質、バリエーションの少なさが影響しているのだと考えています。その後の半導体の進歩が回路技術の向上に大きく寄与していて、電源回路もその恩恵を受けています。二つ目に考えられるのは、寿命品である真空管とうまく付き合うにはフェールセーフの回路を基本に据えなければいけなかったという事情です。整流管やセルフバイアス回路なんかは典型ですね。三つ目は何と言ってもコストだと思います。私も含めてアマチュアが製作するアンプで電源の占める割合はかなり大きいのですが、メーカーの場合はどこかで妥協するしかありません。安定化電源を採用すると、トランスもヒートシンクも一回り大きくなってしまいます。



真空管アンプに安定化電源が必要なのかというと、私は「あった方が良い」という立場です。現代社会では様々な電化器機が動いていてAC100Vの品質は非常に悪くなっています。オーディオのようなデリケートな趣味には電源環境が重要であると考えています。



増幅デバイスとしての真空管は、電圧入力/電圧出力の素子です。ちなみに、トランジスタは電流入力/電流出力でFETは電圧入力/電流出力の素子です。真空管に限らずどのような素子でも、電源電圧が変動すると動作ポイントが変わり設計通りの動作ができなくなります。

このような増幅素子の弱点を補うのがNFB技術だと思います。しかし、真空管を使った増幅回路では一般的にNFBの量は少なめです。NFBが無かったり少なめだったりすると増幅回路の性能が電源電圧の変動に影響されやすくなります。真空管アンプは、トランスを使ったり扱う電圧が高かったりしてNFBをかけにくいのですが、そのようなアンプにこそ安定化電源を使うべきだと思います。ただ、安定化電源には必ずと言っていいほど負帰還が使われていますから、NFB=悪と考える方に嫌われるのかもしれません。

ちなみに、安定化電源が前提であると思われているオペアンプですが、ゲインの小さな回路で使う限り大きなNFBの効果があって電源変動の影響は少なく十分実用になる事があります。



下の写真は真空管用ではありませんが、CQ出版社の「作りながら学ぶエレクトロニクス測定器」を参考にして製作した実験用電源装置です。このような電源が一台あると何かと重宝します。


01





02







2017/01/01

あけましておめでとうございます






2017







« 2016年12月 | トップページ | 2017年2月 »