電源入門
電源トランス 〜シミュレーションモデルの作成〜
LTSpice等のシミュレーションソフトを使うと、整流回路の動作が組み立て前に確認できてとても便利です。しかし、トランスの等価回路をどう考えればよいか、パラメータの抽出(測定)はどうしたらよいのか等敷居が高いと感じるのも事実です。でも、オーディオで使う電源トランスであればそれほど難しくないので紹介したいと思います。
上図はトランスの等価回路です。
漏れインダクタンスL1とL2はコアに巻かれた巻線のうち電力伝達に貢献しない部分です。巻き方によって大小差がありますが、どんなトランスにも存在する役に立たない無駄飯食いの部分です。励磁インダクタンスL3はコアに巻かれた巻線のうち電力伝達を担う部分です。
R1とR2は銅損と呼ばれます。巻線の直流抵抗分です。
R3は鉄損と呼ばれます。巻線に電流が流れるとコア材に渦電流が流れ、これにより熱が発生します(電磁調理器の原理です)。さらに、交流電流が流れると内部の磁極が反転を繰り返し、これによりエネルギー損失が生じます。これら、銅損以外の損失を鉄損と呼びます。トランスの仕様で鉄損がどれだけかを表す場合、抵抗値(Ω)ではなく損失(W)での表示となります。
LTSpiceにはトランスモデルは用意されていませんから、等価回路をそのまま入力することはできません。LTSpiceでトランスはどう考えればよいのか、等価回路中の理想トランス、L1、L2、L3、(L4)について説明したのが下図になります
前記等価回路では励磁インダクタンスを一次側だけに設けていましたが、上図左では二次側にも置いています。
LTSpiceでは、結合係数kと巻数比nで関係づけられた、それぞれLaとLbのインダクタンスを持つ二つの巻線で考えます。Laは一次側漏れインダクタンスL1と一次側励磁インダクタンスL3の和です。Lbは二次側漏れインダクタンスL2と二次側励磁インダクタンスL4の和です。漏れインダクタンスと励磁インダクタンスの割合をkとしています。二つの巻線の巻数比はnで与えられます。
一次側インダクタンスLaと巻数比n、結合係数kを与えれば他の定数はすべて決まります。実際、LTSpiceではそのような仕様になっています。
商用電源につなげる電源トランスでは、扱う周波数が50Hzもしくは60Hzと低いので漏れインダクタンスの影響はほとんど受けません。漏れインダクタンスL1=0、L2=0とするならば、上図からK=1が導き出されます。
周波数が低いということで浮遊容量の影響も受けませんから、C1=0、C2=0で考えれば良いということなります。
損失という観点で見ると鉄損の影響は大きいのですが、我々がトランスの磁気特性を得ることは難しく、仮に得られたとしてもLTSpiceにはこれを組み込む機能が標準で用意されていません。ということで、無視(R3=∞)して考えます。
以上の考察から、シミュレーションに必要な定数は下記の3つということになります。
① 一次、二次直流抵抗
② 巻数比
③ 一次側インダクタンス
タンゴのトランスME−275を実際に測定してみます。
①一次、二次直流抵抗
すべての巻線を開放状態にします(測定器以外は何も接続しない)。テスターもしくはマルチメータで測定できます。一次巻線やヒータ巻線は値が小さいので、4端子法で測定するべきかと思います。
一次側直流抵抗 : 0.967Ω
二次側直流抵抗 : 30.7Ω(外側)
29.4Ω(内側)
②巻数比
すべての巻線を開放状態にします(測定器以外は何も接続しない)。一次側に発振器を接続します。周波数は50Hz〜数百HZ、電圧は1Vrms〜5Vrmsぐらいです。テスターもしくはマルチメータで一次側と二次側の電圧値を測定します。一次側の電圧をV1、二次側の電圧をV2とすると巻数比nは、n=V2/V1で計算できます。
巻き数比 : 3.4
③一次側インダクタンス
測定は平衡ブリッジ法で行っています。オペアンプを使わずに抵抗だけでも測定できます。電圧はマルチメータで測定しました。
Analog Discoveryでの測定を試みましたが、トランスのインダクタンスが大きいため低い周波数で波形が安定するのに時間がかかり正確な値が得られないようです。
測定結果ですが、右上がりで値が増加していき、3KHzがピークでその後値が下がっていきます。
3KHzより下では鉄損の影響が大きいようです。等価回路で描かれているような励磁インダクタンスと鉄損の並列回路というわけではなく、非線形性を持った複雑な回路のように見受けられます。
3KHzのピークはインダクタンスと浮遊容量の共振点です。トランスから「キーン」という音が聞こえてきました。3KHzより上の値は浮遊容量が支配的です。
60Hzのインピーダンスは414Ωでした。この値が”純”インダクタンスだとするならば、414÷(2πf)=1.1Hと計算されます。
250Hzのインピーダンスは775Ωで、インダクタンスは0.5Hと計算されます。鉄損の影響が少なくなる1KHzのインピーダンスは1560Ωで、インダクタンスは0.25Hと計算されます。どの値を使えばよいのか分からなくなりますが、整流回路のシミュレーションを行う限り、どの値を使っても差はありません。
では実際にLTSpiceでトランスモデルを作成してみましょう。
回路図を開き、まずインダクタを配置します。MAC版ではファンクションキーF2を押すと部品選択画面になります。ここでは極性付きの”ind2”を使います。
次に巻線の直流抵抗を配置します。
素子と素子をつなげていきます。MAC版ではファンクションキーF3を押すと配線モードになります。次に各素子の値を入れていきます。二次側のインダクタンスは、一次側インダクタンス X 巻数比 X 巻数比 で計算できます。1.1 X 3.4 X 3.4 = 12.7 です。
次がこの作業の重要ポイントです。結合係数kをSpice Directiveで設定します。Windows版であれば、ツールバー一番右にある”.op”アイコンをクリックします。MAC版であれば、キーボードの”s”を押します。そうするとEdit Text on the Schematic画面が開きますから、「K1 L1 L2 L3 1」と入力します。
参考文献:
遠坂俊詔、電子回路シミュレータSIMetrix/SIMPLISによる高性能電源回路の設計、CQ出版社、p.61−69













