KT88プッシュプルアンプ 調整と測定(3)
(Ⅲ)発振対策
(ⅰ)初めの状況
下図の定数で約20dBのNFBをかけました。アンプの入力をグランドに落とし、出力に4Ωの抵抗負荷を接続してあります。
電源を入れると、振幅数百mVで3MHz前後のきれいな正弦波が出力に現れました。
発振しています!
(ⅱ)出力段の高域を抑える
調査のためNFBを外し、測定範囲を10MHzまで拡大してアンプの周波数特性を測定した結果が下図です。ゲイン0dBと周波数1MHzのところに緑色の線を入れてあります。
気になったのは1MHz以上の特性です。信号レベルが低く測定限界に近いということもあるのですが、一旦ゼロ(1倍)を切ったゲインが再びプラスに転じています。ここに原因の一つがあるのではと考えました。
対策としてアンプ出力に抵抗とコンデンサを直列接続したダンパ回路を接続することにしました。
(多極管アンプの容量性負荷対策としてお馴染みのものです)
6.8Ωと220nFの組み合わせで何とかゼロを切ることができました。
(ⅲ)電圧増幅初段の高域を抑える
次に、アンプ出力をβ回路を介して受けている電圧増幅初段に注目しました。初段の周波数特性が”良すぎる”ことが原因ではないか考えたのです。下図は初段の回路構成です。
オペアンプにはAD797を使い、マイナス端子と出力の間に入っているコンデンサの容量は22pFでした。
この時の初段の周波数特性が下図です。出力は1Vrms、−3dBのカットオフ周波数は2.8MHzです。
マイナス端子と出力の間に入れているコンデンサの容量を100pFに増やした時の周波数特性が下図になります。−3dBカットオフ周波数は1.6MHzまで下がりました。
前記のダンパ回路追加とAD797マイナス端子と出力の間に入っているコンデンサ値を100pFに変更することとで、何とか3MHzの発振を止めることができました。
マイナス端子と出力の間に入れているコンデンサを外し、オペアンプをOPA627に変更しても同等の効果が得られました。下図は、この時の初段周波数特性になります。カットオフ周波数は1.2MHzでした。
NFB回路の中心であるβ回路にコンデンサを入れ微分補償を行っています。しかし、微分補償は位相の回転を遅らせると同時に高域のゲインを上げてしまいます。補償コンデンサの値を大きくしていくと今回の現象が悪化することが確認されました。