KT88プッシュプルアンプ 構想と仕様
中学生の頃の参考書は専ら「初歩のラジオ」でした。時期と内容ははっきりしないのですが、中学生が森川忠勇氏の指導を受けてKT88プッッシュプルアンプを製作するという記事が掲載されました。とても羨ましかったのを覚えています。いつの日にか私もKT88アンプを作ってみたいと思いました。
社会人になってから知人にそのことを話したところ、その知人はアンプ製作とは無縁だったにもかかわらずGECブランドのKT88を持っていて、使わないからとタダでゆずってくれました。そこまでは良かったのですが、ゲッターがほとんど飛んでいて使い物になりませんでした。もちろん使えなかったとは言えませんでした。その知人は真空管の知識がない方だったので仕方ありませんね。
初めてKT88アンプを製作したのは20年ほど前です。中国からGolden Dragon KT88 Classicという本物そっくりの球が出たことを知り、早速購入し出力が30W程度のULプッシュプルアンプを製作しました。当時使用していたアキュフェーズのP-266と聴き比べたのですが、良い印象が無かった記憶があります。私の腕が悪かったのだと思います。
KT88の歴史と現行ロシア管について、2015年のラジオ技術1月号と2月号に都来往人氏が詳述されています。読み物として大変面白いのですが、技術史資料としても一流の内容です。
KT88は6550をベースに開発され、1956年に発表されました。今年で60年となります。開発と製造は、MarconiとOsramの合弁会社M-O.Valveです。販売ブランドはGEC、Genalex、Gold-Lion等々、色々あります。1988年まで製造が行われていたということなので、高価ではありますが未だ時々市場に出てくるようです。
現行品ですが、スロバキア(JJ)製とロシア(Reflector工場)製の2つに絞られます。現行のGold-Lion、Mullard、Electro-Harmonix、Sovtek等々のブランドは全てReflector工場で作られているようです。Svetlana工場製は現在入手できません。
KT88はプレート最大電圧が800V、プレート最大損失40Wの大型管です。電源電圧560VのUL接続で100Wが得られるとデータシートに記載されています。今回そこまで頑張ることはせず、製作例の多い出力50W〜60Wを目標に設計しようと思います。
今回製作するアンプの目標仕様です。
最大出力 : 60W
歪率 : 1%以下(50W出力時)
増幅度 : 14dB(5倍)/4Ω
周波数特性 : 10〜100KHz(−3dB)
ダンピングファクタ : 15以上
残留雑音 : 0.2mV以下
参考文献:
都来往人、ロシア製Mullard KT-88復刻版(前編)、アイエー出版「ラジオ技術」、2015年1月号、p.45−62
都来往人、ロシア製Mullard KT-88復刻版(後編)、アイエー出版「ラジオ技術」、2015年2月号、p.37−56
誠文堂新光社「世界の真空管カタログ」
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